(無題)  

と答えました。
 すると、大男は笑いながら、
「高が犬を一匹くれなどとは、お前も余っ程欲のない男だ。しかしその欲のないのも感心だから、ほかにはまたとないような不思議な犬をくれてやろう。こう言う己は、葛城山の足一つの神だ。」と言って、一声高く口笛を鳴らしますと、森の奥から一匹の白犬が、落葉を蹴立てて駈けて来ました。
 足一つの神はその犬を指して、
「これは名を嗅げ と言って、どんな遠い所の事でも嗅ぎ出して来る利口な犬だ。では、一生|己の代りに、大事に飼ってやってくれ。」と言うかと思うと、その姿は霧のように消えて、見えなくなってしまいました。
 髪長彦は大喜びで、この白犬と一しょに里へ帰って来ましたが、あくる日また、山へ行って、何気なく笛を鳴らしていると、今度は黒い勾玉を首へかけた、手の一本しかない大男が、どこからか形を現して、
「きのう己の兄きの足一つの神が、お前に犬をやったそうだから、己も今日は礼をしようと思ってやって来た。何か欲しいものがあるのなら、遠慮なく言うが好い。己は葛城山の手一つの神だ。」と言いました。
 そうして髪長彦が、また「嗅げにも負けないような犬が欲しい。」と答えますと、大男はすぐに口笛を吹いて、一匹の黒犬を呼び出しながら、
「この犬の名は飛べ と言って、誰でも背中へ乗ってさえすれば百里でも千里でも、空を飛んで行くことが出来る。明日はまた己の弟が、何かお前に礼をするだろう。」と言って、前のようにどこかへ消え失せてしまいました。
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(無題)  

新しい着物を着たルイはちよつと恥かしがりましたが、しかし大喜びでした。彼れは日に輝くボタンが大好きでした。そしてポケツトを幾度もひつくり返して、玩具が皆んな入るかどうか見てゐました。殊にその大得意なのは、いつも同じ時間を指してゐるブリキの時計でした。彼れよりも二つ年上の、兄のジヨセフもやはり大喜びでした。ルイはもう兄さんと同じ着物を着たので、兄さんは鳥の巣や苺のある森の中にルイを連れて行つてもいゝのでした。二人は、頸にかはいらしい小さな鈴をつけた、雪よりも白い一疋の小羊を持つてゐました。そして二人はそれを牧場へ連れて行くのでした。お弁当はバスケツトに詰めました。兄弟とも、遠くへ行つてはいけないと云つてくれるお母さんに、キツスしました。『よく弟に気をつけてね。』とお母さんはジヨセフに云ひました。『手を引いて行くんだよ。そして早く帰つて来るんですよ。』二人は出かけました。ジヨセフはバスケツトを持ち、ルイは小羊を曳いて行きました。
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