2016/2/26

秀歌(61)清水房雄 角川一月号  秀歌読みましょう

清水房雄さんは100歳の大家で、長く読売新聞歌壇の選者をつとめられた、アララギの歌人である。しかし戦前は予科練の教官として、多くの若者を飛び立たせたことが、戦後の懺悔として残ってその事を詠ってきた。評価の高かった歌人ではあるが、読売を引いてからはどこかで忘れられたような所もある。
私は不識さんから頂いた「残余小吟」を少し読んだだけだが、しっかりとした歌風に戦争への懺悔と歌にからめ捕られた一生を詠って嫌な所は無かった。大家であるけれど、あまりに御年になると話題にならなくなるのか、100歳のお祝いと言う記事も見かけず(考えたら白寿のお祝いをしたのだろう)にどうしているのかと思ったら角川「短歌1月号」の「初笑い」企画競作の巻頭を飾っていた。まず5首を。

「赤ワイン」

日の寒暖も知覚せぬ迄老いはてぬ今日は寒しと家人言へれど

老の背の痒き掻かむに此のあたり「孫の手」を売る店無きものか

今日の昼餉は楽しみにせし加薬飯ほのか温(ぬく)みの去らざる内に

うつむきて密かに含む赤ワイン幾年ぶりか此の甘美さの

東京裁判史観を以って示されし日本絶対悪説も定着せしか

あれ、と思ったのはそれまでの戦争への懺悔の姿勢から、ちょっと離れた感じを受けた事。それはやっぱり年のせいなのか、安倍内閣をはじめとする世の中の流れが変わったせいなのか。生活歌の様子、歌う事への執着は変らないのだから、右傾化の時代だから五首目の歌を出して見ようかという事なのかもしれない。(あまりの大家というのはどう書いていいか難しい所があって、私には無理だなあと言う思いがある)
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2016/2/19

佐野の友人  短歌

「風の歌会」がクローズなのでずっと書かないで来たが、先日の会に出した歌について、自分の歌は他に出すのでなければ載せても良いので歌会の内容ではなく、歌について書いてみたい。
私には大学時代の友人で栃木県の佐野に住んでいる男性がいる。その人がいつもこのブログを読んでくれていて、私の思い出話の中に「僕が出てこないね」という。そりゃ本人が読んでいるのに滅多な事は書けないから、私も自粛してしまうのだ。
彼の奥さんとはお話したことがなかったのだが、先日は電話で(彼が外出中だったので)女同士少し楽しくお喋りをしてしまった。このくらいの年になると、昔の話をぶちまけてもどうもならなくなっているので、いいなあと思った。そうしたら、佐野の昔の話や古歌などからすうーと歌が出来てきたのだ。丁度「歌会」に出す歌のお題とも合ったので、それを提出してみた。

鉢の木を二三くべても寒かろに、佐野のあたりに友は元気だ 多香子

物語や古歌を下敷きにしたので、分って貰えないかも知れないと思ったが、コメントで説明して下さったり点もすごく入って嬉しい結果だった。

「鉢の木」は謡曲や、太平記に出てくるお話で、鎌倉時代の執権北条時頼が旅の僧に身をやつし訪れた佐野の御家人の佐野源左衛門尉常世の家で何もないからと大事にしていた「鉢の盆栽」を三鉢囲炉裏にくべて暖をとらせてもらった。そのうらぶれた武士の「いざ鎌倉」の時には真っ先に駆け付けて、と言う心意気を忘れず、後に陣振れにかけつけた源右衛門に報いた、と言う話だ。話の原型は因果応報物語なので、私達は子供のころから聞かされた話しだったが、少し大きくなった頃私は「枯れ木でない盆栽は燃えにくいし、三鉢ぐらいで暖まるものでもないのでは」と言う疑問を感じていたのだ。
その他に「 駒とめて袖打ち払ふ陰もなし 佐野のわたりの雪の夕暮れ 」という新古今集の定家の歌も頭に有って、それが時々ごっちゃになることもあった。
それでこの歌の上の句がふっと出て、下の句に佐野の友人が元気にしていることを「佐野のわたり」をもじってみたのだ。自分でもふざけていると言われず済んだし、下敷きの取り方が丁度いいと言われたので、これを書いても彼の友人にも怒られない気がする。

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2016/2/12

二月の歌  短歌

一月は逝く、二月は逃げると言って時が経つ速さをなげくが、春が近くなってくる楽しみもあるだろう。本当に春が来ると、それは狂いの季節のように花に憧れ、心せわしい物だから今の内は寒さとともに堅実に歩くことが望ましい。
などと分かったような事を言って、二月の歌は「童話」の一部を下敷きにしながら童話と現実の隙間の世界の心を詠った(つもりの)歌を六首ならべる。

「童話とも言えない」

粉雪が酔い冷ますころ鐘がなるガラスの靴をなくしてしまった

どうしてももう一度飛ぶ、折れた羽根抱いてわたしの火の鳥が言う

「あなたなんて舌を切られて死ねばいい」と言えず窓辺のすずめにパンを

キングから指輪受け取る乙女子をダイヤのクイーンがひそと見ている 

天使ころぶ、アッという間に手を離れまっ赤な風船そらに飛び行く

仲間たち白馬も姫も君を待つ あの虹の尾の入る森では

どこが「寒さと共に堅実にだ」とお怒りになっているあなた、立春も過ぎて頭の中に花が咲く季節が来たのです。
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