2018/6/29

秀歌(77)蒔田さくら子「角川短歌」四月号より  秀歌読みましょう

この頃の私は、若い人(大体私の言う若い人はアラフォーである)の歌に魅かれることが多いのだけど、角川五月号の馬場あき子さんや、この四月号の蒔田さくら子さんの歌を読むと、やはりあーとうなってしまう。殊に蒔田さんは途中さすがに年の陰がさしたかなと言う感じから、それを自然に自分の中に納めつつ、歌として紡ぎ出している所がすごいなあと感心するのだ。
蒔田さんは東京生まれの89歳短歌人の重鎮でもう前に編集委員は引かれたが、略歴をみると私の生まれた年に短歌を初めて居られたのだと感嘆する。

「雨もよひ」

しあはせといひつつ虹を見し日ありきふたたび虹を見ることありや

和田倉濠と馬場先濠を分くる道ゆりかもめ来てゆうらりと飛ぶ

残り雪凍るとこころしてあゆみビル入り口の段差にころぶ

この国はもうなりたってゆきませんなどいふ日のあるかあらぬか

頼られてゐるはすなはち私も頼りゐるなり二人暮らせば

夫を見舞ひて帰るさのみち池袋北口きらきらホテル街なり

布巾かたく絞りて独りの厨ごと終へたりぱんと布巾をたたく

巻頭28首から七首を並べたがご主人が入院なさったらしく、お見舞いに行き来する道すがらなどを詠んでもまだまだ明るい。七首目の布巾を絞ってぱんと叩く処、江戸っ子のきりりとした風情がある。
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2018/4/27

秀歌(76)真中朋久「角川短歌」三月号より  秀歌読みましょう

真中朋久さんは塔の選者で1964年茨城生まれ、京大地球物理学修士というからいかにも「塔」だなあと言う気がする。天気予報士の資格も持っているが、防災工事などの現場仕事にかかわっていたようだ。私は「塔」誌で少し歌を読んだ位であまり知らなかった。四月から今年の「NHK短歌」の選者ということで、興味を持って読んだ「角川短歌」三月号の巻頭十首から五首を並べてみた。

「みずたまり」

とびこえるほどにもあらぬみづたまりきれぎれにそらをうつしてひかる

申しわけないがなにゆゑいきどほりゐるかわからず目を伏せて聞く

われをしも悪鬼のやうに言ふひとよ言ひつのるひとのうしろ背の闇よ

もうわすれてくださいといふこゑなどもありありとみみのそこにのこれる

大風呂敷たたまぬままに飛ぶ鳥の明日はかの人も辞めてゆくとぞ

この十首一連は職場の中でのいさかいを暗示して、作者もその相手も大人げない事という気持ちはあるのだろうが、「仕事」の中身が描かれない以上「肌の合わない」もの同士が一つ場所に居てしまった不幸のようなものを感じる。これは一種の男歌で、女同士はもっと陰湿になるから歌にはしないような気もする。(私の読みすぎだろうか)
そして私もいろいろ考えることはあるけれど、こういう憎み合いの様な歌は好きではないが、見せかけの優しさの歌よりも自分の立場を守るための戦いの歌としたらいっそいいのではないかと思った。読みにくいかなの羅列にも技巧が込められているのだろうと言う気にもなった。
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2018/2/23

秀歌(75)大島史洋「角川短歌」一月号より  秀歌読みましょう

「角川短歌」の一月号は毎年大勢の歌人の十首詠にエッセイをつけて、色々な歌人の詠みぶり考えを読めるので面白いのだが、今回は「未来」の大島史洋さんの十首から五首を引いてみた。大島さんは次の「未来」を率いていく人と言われ、師匠もあの「未来」の個性豊か(?)な面々を包むだけの人柄といっている。私はちょっと敬遠しがちだったが『ふくろう』のすさまじく真摯な歌に(私は介護問題に厳しいので)ゆさぶられる思いがした。
「未来」創設者の近藤芳美が最後まで「新かな」を通したことを私の師匠も評価しているが、大島さんも「文語、新かな」を貫いている事を嬉しく思う。

「ミョウガの花」

かたちよきクスノキ立てり吾が前に空高くありおだやかにあり

苦しみを深く知りつつ苦しみの質を問わない集団は良し

有り難き夜の更けにして歯を鳴らしビデオを見ると人に知らゆな

新しく開店したるスーパーの賑わいのなか所在なきわれ

スクランブル交差点眼下に見えて人の動きのおもしろきかな

一月号の恒例の質問は「世界で一番有名な歌は」といもの。それに対して「なにゆえこんな質問が発せられ、答えなければならないのか、困惑するばかり」といっているのも率直だけれど、少し暗さも感じられる。「塔」と「未来」は「一般社団法人」の形をとった。時代はうねっているのかもしれない。
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