(無題)  

と、声を揃えて喚きました。
 髪長彦は驚いて、すぐに二人へとびかかりましたが、もうその時には大風が吹き起って、侍たちを乗せた黒犬は、きりりと尾を捲いたまま、遥な青空の上の方へ舞い上って行ってしまいました。
 あとにはただ、侍たちの乗りすてた二匹の馬が残っているばかりですから、髪長彦は三つ叉になった往来のまん中につっぷして、しばらくはただ悲しそうにおいおい泣いておりました。
 すると生駒山の峰の方から、さっと風が吹いて来たと思いますと、その風の中に声がして、
「髪長彦さん。髪長彦さん。私は生駒山の駒姫です。」と、やさしい囁きが聞えました。
 それと同時にまた笠置山の方からも、さっと風が渡るや否や、やはりその風の中にも声があって、
「髪長彦さん。髪長彦さん。私は笠置山の笠姫です。」と、これもやさしく囁きました。
 そうしてその声が一つになって、
「これからすぐに私たちは、あの侍たちの後を追って、笛をとり返して上げますから、少しも御心配なさいますな。」と云うか云わない中に、風はびゅうびゅう唸りながら、さっき黒犬の飛んで行った方へ、狂って行ってしまいました。
 が、少したつとその風は、またこの三つ叉になった路の上へ、前のようにやさしく囁きながら、高い空から下して来ました。
「あの二人の侍たちは、もう御二方の御姫様と一しょに、飛鳥の大臣様の前へ出て、いろいろ御褒美を頂いています。さあ、さあ、早くこの笛を吹いて、三匹の犬をここへ御呼びなさい。
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(無題)  

花は長い鈴か、手袋の指先のやうな形をしてゐます。で、この特長に因んだ別な名があります。』
『それぢや、此の辺できつねのてぶくろ 「きつねのてぶくろ」に傍点]と云ふのでせう。それなら森の廻りによく生えてゐますよ。』とジヤンが云ひました。
『花が手袋の指に似てゐるから、きつねのてぶくろ 「きつねのてぶくろ」に傍点]と云ふのです。同じ理由から、この花は、ほかの所では、ノオトルダムの手袋 「ノオトルダムの手袋」に傍点]だとか、マリアのてぶくろ 「マリアのてぶくろ」に傍点]だとか、又指袋 「指袋」に傍点]だとか云はれてゐます。ヂギタリスという名はラテン語で、指の形をした花と云ふ事です。』
『こんな綺麗な花に毒があると云ふのは可哀さうですね。庭にでも植ゑたらさぞいゝでせうに。』とシモンが云ひました。
『さうです。装飾植物として植ゑてもゐます。が、それはほかの庭とは厳重に区別してあります。ですが、皆さん、吾々には花の番をすると云ふやうなひまはないのですから、そんなものは植ゑない方がいゝのです。此の草はどこもかも毒です。
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