間もなくちょっとした新たな生活の展開を迎える  小説

彼は間もなくちょっとした新たな生活の展開を迎える。天天素
地下鉄に乗るので階段を下る際に足を踏み外した彼は、階段を転げ落ちるとその衝撃で
眩暈がしてすぐに立ち上がれなかった。周りを見ると誰もいないので、恥ずかしいとこ
ろは見られなかったと思い立ち上がった。

しかし、次の階段でまた転げ落ちて、その次の階段でも転がり落ちた。それから何故だ
か毎日階段を転がり落ちるようになってしまった。どこか身体の異常なのかと思い、病
院で検査を受けたが異常は無かった。そして、毎日転がり落ちていたら、何だか分らな
いが楽しくなって、階段を見ると嬉しくなった。

最初は自然と階段から転がり落ちていたが、意識し始めて面白くなってからは、階段が
あると転げ落ちるチャンスをうかがい、人気の無いのを見計らっては転げたので、生傷
が絶えなかった。ある時は転げ落ちて横になり余韻に浸っていたら、救急車を呼ばれて
難儀したので、それ以降はやたら転がることなく、イメージのみの寸止めにしたり、素
早く転げ落ちて楽しんだ。行く先々で階段を見ると無性に転げ落ちたくなるが、抑える
のに苦労を伴った。

家では両親は既に先立って、一人暮らしなので誰かに気兼ねすることも無く楽しめた
が、家の中のちゃんとした階段は狭いので、転がり落ちる時に窮屈感があるがそれなり
に面白い。伸び伸びと転がりたかったので、庭に手製の階段を作ったが、作ってから人
目が気になり、一部屋を階段部屋として使い、木製の少し幅のある階段を作った。家の
中なら人目を気にすることもないし、汚れる心配もなく、重傷にならなければ落ち放題
だ。

更に階段の落ち方の工夫をして、その都度ノートに書き、転がりながら思ったこと、そ
の時の痛みの感じ方、怪我をした時の怪我の状態、滑らかな転がりだったかどうか、転
がり落ちた後の感想などを仔細にノートに書き込んだが、エスカレーターは危険なので
自重した。

足から落ちるのは頭を強く打つ可能性が高いので、両手で頭を抱えるように落ちるのが
安全だと当然なのだが確信した。その際の足の伸縮と足の構えも慎重に検討を重ね、手
製の階段も含めて試しては、深夜に近くの歩道橋に行き転がり落ち具合を確かめた。

階段の中でも螺旋階段は別格で、なかなか無いし、転がり落ちながら別の弧を描いてご
ろごろと転がり下るのは何とも云えないものがある。目標は某タワーの階段転がり落ち
だが、何時の日か実現させたいと夢想している今日此の頃の彼だった。RU486
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冷えていたはずの三百五十ミリは、すっかりぬるい  小説

 素敵なお兄さんと一緒に予想外に低反発な馬車 (ということにしておく) に乗せられ、花畑を抜け、森を抜け、湖の真ん中に続く跳ね橋を渡って、連れてこられたのは、尖塔が乱立する、

「……もしかして、お城ですかここ」

 頑丈そうな壁の張り巡らされた様子は城というより要塞のようだったが。

 中身は迷路のような要塞の一室にブリキ兵士に案内された。ベージュが基本の応接セットにふかふかカーペットとチェストが一つ。ほかにはランプらしきものが置いてあるだけの部屋だ。
 案内してくれた兵士さんはドアの前まで来て部屋には入らないから誰かほかの人が来るのかと思ったら、一緒に連れてきてくれたお兄さんが応接セットのソファを私に勧めた。

 促されるまま腰掛けると、前置きすら省いてお兄さんは話しだす。

「君は、ここが異世界だと認識しているか?」

 いいえ、とも、はい、とも応えにくい質問だ。
 沈黙を持って答えとすると、

「理解できないかもしれないが、ここは君が暮らしていた世界とは異なる世界だ」

 えっとー、なんか出てきましたよ? この非常識事態に非常識発言が。
 お兄さんはまっすぐこちらを見ながら話を続ける。

「君はもう戻れない」

 ……ええと、頭の悪い私でもここがさすがに天国や地獄ではないことは理解しましたよ。
 いくら美形でも質問ぐらいはさせてもらおう。

「えっと、お兄さんは、日本人ですよね?」

「そうだよ。北城清司。君は?」
 
 あら、質問返された。

「……君島葉子です」

「いくつ?」

「……二十四です」

 なんだか会社の面接みたいでかなり緊張するんですけど。

「仕事は何してたの?」

 お見合いかこれは。

「派遣社員で事務を」

 おおいお兄さん! いくらお助けキャラだからって仕事聞いて溜息つくなよ! 派遣なめるな!

「俺は、北城コーポレーションのCEOだった」


 あんだすたーん?

 しーいーおー? 

 つまりは、社長さんですか。
 私より年上っぽいけどまだ三十路にも届かないほどのご年齢ですよね?
 美形で社長でお金持ち? 
 マンガだ! リアルに二次元が紛れ込んでる!

 はぢめて見たー…こんなマンガな人。

 物珍しげにガン見していたのか、お兄さん、北城社長は苦笑した。

「もう社長じゃないよ」

 私が帰れないのならお兄さんも状況は一緒ってことだ。
 でも、その威圧感の意味がわかりました。そっか、社長さんだったのかー。

「過労寸前の日々から解放されて、ちょっとほっとしているんだ」

 セレブ会話ぁ。
 来る日も来る日も働かなきゃ食ってられない私には、うらやましい限りです。そんなセリフ。

「あの日も忙しくてね」

 少し遠い目で北条社長は続けた。

「本当に突然だった。車に乗って家に帰る途中、眩しい光に包まれたと思ったら、俺はこの城の神殿にいた」

 ……ん?

「神官から、この東国のために異世界から召喚したと告げられて、とてもじゃないが納得はできなかったが、帰る手段はないと言われた」

 さも自分は不幸だというような顔されていますが、文明の真ん中に落ちたんですからまだマシじゃないですか。
 社長は異世界でも社長待遇なんですね。私なんて野っぱらで第一村人は正体不明の黒マントでしたよ。
 
「……君には、悪いことをしたと思っている」

 はい?

「俺があのとき、車であの交差点を通らなければ、君はここにはいなかっただろう」

 あー…。

「……あの車、北城社長だったんですか」

 社長の話を引き継ぐと、社長自ら運転されていた時に不幸にも目映い光に包まれて、運悪く交差点に差し掛かった。
 つまり、私は、この世界に召喚されたわけでもなく、巻き込まれたということだ。

 全て話し終えたのか、社長がホッと一息つくと、

「失礼いたします」

 タイミングを計ったように、ノックが鳴り、返事を待たずに扉が開いた。
 つかつかと音がするほどキビキビと入ってきたのは、紺の詰襟男だった。
 マンガでしか見かけないような長い銀髪が緩く結わえてあって、色白長身の姿は、それはそれは美しいが雰囲気は絶対零度。
 話しかける気も失せる拒絶反応で、北城社長だけに手を胸にあてて礼を取る。

「セージ閣下。会議のお時間です」

 おいおいおいおい。
 
「わかった」

 納得しちゃうのか社長。
 
 北城社長はソファから立ち上がりかけて私に目を配った。

「君の身元は保証する。生活も私が保証しよう。この件についてはまた話し合いの機会を持とう。今日はゆっくりこの城で休んでくれ。案内をつける」

 そう言い残して、社長はこの殺風景な部屋をいそいそと出て行った。
 この長身の国でも社長は見劣りしないのね。重ね重ねうらやましいわ。

 残された私はというと。


「……あ、ビール」

 いつまでも手に持ったままだったコンビニのビニール袋から、ビールを取り出した。
 冷えていたはずの三百五十ミリは、すっかりぬるい。
 かまわずプルトップの封を切って、一気に飲んだ。

 
 飲まなきゃやってられない。
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