月曜日と金曜日は買い物に出かける

2011/10/12 
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 夜になると、どうしても目が冴えてしまう。普段からずっと在宅でデスクワークをしているので、神経が高ぶるのだ。一応月に一度、安定剤などをもらいに行く掛かり付けの精神科で軽めの睡眠導入剤を処方してもらっていたのだが、やはり服用しても眠れないことがあった。そういったときはモーツァルトなどの静かなクラシック音楽を聴きながら、ベッドの上で眠りに落ちるのを待つ。眠剤を飲んで横になっていれば自然と脳が休まり、いつの間にか眠ってしまう。あたし自身、アロマセラピーもやっていた。いわゆる人工的な癒しである。お香などを焚(た)くことによって、部屋の中の空気がガラッと変わり、眠れるようになるのだ。なるだけゆっくりと寛ぎながら、人間にとって必須(ひっす)な睡眠を取る。全ての疲労は夜間熟睡できていないことから来るのである。そういったことはちゃんと把握していた。だから夜は極力眠るよう努める。もちろんお酒に頼ることもあった。ウイスキーの原酒を冷蔵庫から取り出し、グラスに半分ほど注いで、上から冷えたミネラルウオーターを足して割る。水割りを軽く一杯呷ると、眠りに就きやすくなるのだ。いろんな工夫をしているのだった。特に秋冬は夜が長い。そういったことは分かっていて、あえて眠れるようにする。その夜もなかなか眠れなかったが、十歳年下の彼氏である建一の携帯に家の固定から電話してみた。彼も起きていたようで、
「はい」 
 という声が聞こえてくる。あたしが、
 ――こんばんは、建一。
 と言うと、電話先から、
「ああ、莉子(りこ)。どうしたの?こんな夜中に」
 と聞こえてきた。深呼吸して、
 ――……眠れないのよ。何か原因があるのかしら?
 と訊いてみた。建一が、
「昼間ストレスがあるんだろ?それを解消すれば眠れるようになるよ。自然とね」
 と言った。そして重ねるように、
「悩み事があったら聞いてあげる。何でも話して」
 と言ってくれた。少しずつ搾り出すようにして話をする。さすがに夜眠れないとき、話を聞いてくれる人は大事だ。ゆっくりとした口調で話し続けた。もちろん眠剤も飲んでいたので、少しずつ眠くなってくる。気持ちを十分落ち着ければ眠気も差してきて、ちょうどいい具合になってきた。睡眠は人間にとって一番大事だ。特に精神的にいろいろと参っていると、疲れが滲(にじ)み出てくる。そういった場合、ベッドに横になるのがいい。何も考えなくて済むのだし。
     *
「莉子、少しは眠くなってきた?」
 ――ええ。あなたに話を聞いてもらうだけでも、十分楽になるわ。
「そう?じゃあお休み」
 ――お休みなさい。
 受話器を置いて電話を切る。長々と三十分ほど話をしていたので、眠気が差しつつあった。冴え渡っていた目も段々と潰れてくる。睡眠を取るのにベストな状態となった。すぐにベッドに横になると、いつの間にか眠ってしまっていた。そして明け方を迎える。窓辺に差す光で目が覚めた。大概午前七時前には起き出して、キッチンでお湯を沸かし、ホットコーヒーを一杯淹れる。エスプレッソで淹れて、ミルクや砂糖なしのブラックでカップ一杯飲む。疲れはそれで幾分癒えた。大きく一つ背伸びすると、体の端々(はしばし)の神経も目覚めるのが感じ取れる。キッチンからリビングへと移動し、パソコンの電源を入れて立ち上げた。いったんマシーンを起動させて洗面所へと歩き出す。顔に洗顔フォームを塗り、いくらか冷たい水で洗うと、眠気が治まる。髪に気体状の整髪料を塗り、一通りメイクを済ませて、その後マシーンに向かう。朝一で来るメールは大抵業務連絡だ。在宅で仕事をするのは今流行っている。あたしもパソコンと携帯があれば仕事は出来た。単に機械を使いこなすだけで、相当な額の金を稼いでいる。まあ、昔のOL時代の感覚は残っていたのだが……。建一はサラリーマンで営業など外回りがメインだ。彼は相当体力を使っている。あたしと会ったとき、そういったことは決して漏らさなかったのだが、薄々分かる。かなりの疲労とストレスを溜め込んでいることを。建一はメンタルヘルス系の無料の電話相談などに相談しているようだった。特にあたしと会えないときはいろんなものが込み上げてくるらしい。一々細かいことは気にしないようなタイプに見えたのだが、かなり繊細である。傍で見るに。そしてそんなところが好きになっていた。か弱い者ほど可愛がりたいと言うが、その通りである。あたしも建一を愛していたし、彼も年の差を忘れて、付き合いたいようだった。交換のような感じで。
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 月曜日と金曜日は買い物に出かける。自転車に乗って外出し、量販店などでいろんなものを買い込むのだ。あたしも週二日間の買い物ぐらい、普通にこなしていた。確かに疲れはするのだが……。あたし自身、安定剤は欠かさず服用していたし、疲れたと思ったらすぐに休む。無理はしないのだった。決して。そして自宅のリビングに佇(たたず)み、疲れが取れたと思ったら食事を取って、後は下手に起きておかずに眠るためベッドに潜(もぐ)り込む。いったんベッドに入っても眠り辛い夜があるにはあった。そういった場合、健康には悪いと分かっていても、軽く水割りなど寝酒を飲み、ベッドに寝転がった。やはり一定のストレス源があるのだろう。そういったことは分かった上で日々生活していた。幸い在宅の仕事は十分こなせる。疲れたときは遠慮することなく、ベッドに入っていた。そして体力・気力共に満たされれば、また仕事を再開するのだ。もちろん仕事のスケジュールは詰まっていた。指定の日に指定の分だけ仕事をしないと、契約が解除になることもあるからだ。だけど仕事の日程を壊すようなことはまずなかった。在宅業務は自分のペースで出来る代物だったので。負担が掛からない程度にこなす。受発注する分の仕事は多すぎもなく少なすぎもなく程々だ。それでちゃんと回るようになっている。ソーホーというのは理想的な職業形態なのだった。あたしのように対人関係が上手くない人間にとっては。それに建一も休みの日になると前もって電話をし、遊びに来る。確かに年の差はあったのだが、今そういった恋愛が増えていると聞く。別にあたしたちのようなカップルは珍しくも何ともないのだ。むしろ年上女性を好む若い男性が多いとも聞いている。何も躊躇うことはないようだった。これからもずっと一緒にいられると思っていたので。
 そして秋から冬場になるにつれ、目が冴える夜も少なくなってくる。そういったことを具(つぶさ)に感じ取りながら、あたしは彼と付き合い続けていた。大人同士なのであくまで互いに疲労を覚えないよう、ゆっくりとした感じで、だったが……。
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2011/10/12 
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