(無題)  

『随分大きな毬ですね。』とエミルが云ひました。
『地球のまはりを測る事は容易な事ではない。ところが、それどころか、それを秤皿にのせて秤にかける事が出来るものゝやうに、目方まで量つてみたのだ。科学と云ふものは、人間の知力の偉大さを見せるいろんな方法を持つてゐる。この大きな地球の目方までも量つたんだ。何うして量つたかは今日お前達に話す事は出来ない。それは秤を使ふのぢやない。神様が人間にこの宇宙の謎を解くやうにと恵んで下さつた理知の力で量り出したのだ。その目方は六に二十一の零を添へたキログラムになる。』
『そんな数字はあんまり大きくて、僕には何んの事だかまるで分りませんね。』とジユウルが云ひました。
『大きな数と云ふものは何んでも厄介なものだよ。が、もつと厄介な事がある。若しこの地球を車に乗せて、道を曳いて行つたら何んなものだらう。どれ程の馬をつけたらいゝだらう。先
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(無題)  

お綾が、つかつかと屋根へ出て、狼狽えてその少年の下りる処を、ぐいと突貫いたが、下腹で、ずるり腸が枝にかかって、主は血みどれ、どしんと落ちた。
 この光景に、驚いたか、湯殿口に立った髯面の紳士が、絽羽織の裾を煽って、庭を切って遁げるのに心着いて、屋根から飜然……と飛んだと言います。垣を越える、町を突切る、川を走る、やがて、山の腹へ抱ついて、のそのそと這上るのを、追縋りさまに、尻を下から白刃で縫上げる。
 ト頂に一人立って、こっちへ指さしをして笑ったものがある。エエ、と剣を取って飛ばすと、胸元へ刺さって、ばったり、と朽木倒。
 するする攀上って、長船のキラリとするのを死骸から抜取ると、垂々と湧く血雫を逆手に除り、山の端に腰を掛けたが、はじめて吻と一息つく。――瞰下す麓の路へ集って、頭ばかり、うようよして八九人、得物を持って押寄せた。
 猶予わず、すらりと立つ、裳が宙に蹴出を搦んで、踵が腰に上ると同時に、ふっと他愛なく軽々と、風を泳いで下りるが早いか、裾がまだ地に着かぬ前に、提げた刃の下に、一人が帽子から左右へ裂けた。
 一同が、わっと遁げる。……」
「今はもう追うにも及ばず、するすると後を歩行きながら、刃を振って、
(は、)
 と声懸けると、声に応じて、一人ずつ、どたり、ばたりで、算を乱した、……生木の枝の死骸ばかり。
 いつの間にか、二階へ戻った。
 時に、大形の浴衣の諸膚脱ぎで、投出した、白い手の貴婦人の二の腕へ、しっくり喰ついた若いもの、かねて聞いた、――これはその人の下宿へ出入りの八百屋だそうで、やっぱり情人の一人なんです。
(推参。)
 か何かの片手なぐりが、見事に首をころりと落す。
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