杉良太郎の噂  

当夜、二人ばかり婦人も見えた。
 これは、百物語をしたのである。――
 会をここで開いたのは、わざと引手茶屋を選んだ次第では無かった。
「ちっと変った処で、好事に過ぎると云う方もございましょう。何しろ片寄り過ぎますんで。しかし実は席を極めるのに困りました。
 何しろこの百物語……怪談の会に限って、半夜は中途で不可ません。夜が更けるに従って……というのですから、御一味を下さる方も、かねて徹夜というお覚悟です。処で、宵から一晩の註文で、いや、随分方々へ当って見ました。
 料理屋じゃ、のっけから対手にならず、待合申すまでも無い、辞退。席貸をと思いましたが、やっぱり夜一夜じゃ引退るんです。第一、人数が二十人近くで、夜明しと来ては、成程、ちょっとどこといって当りが着きません。こりゃ旅籠屋だ、と考えました。
 これなら大丈夫、と極めた事にすると、どういたして、まるで帳場で寄せつけません、無理もございますまい。旅籠屋は人の寝る処を、起きていて饒舌ろうというんです。傍が御迷惑をなさる、とこの方を関所破りに扱います、困りました。
 寺方はちょっと聞くと可いようで、億劫ですし、教会へ持込めば叱られます。
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ホテルきゃんきゃんの噂  

「こまったなあ――そうだ、このうえは、おれも青江とともに死ぬんだ」
 なにを考えたか、小浜兵曹長は座席のなかをのぞきました。彼は座席の下から、革のふくろにはいった飲水をとりだしました。この革ぶくろを腰にさげると、彼はバンドをとき、座席にぬっとたちあがりました。
 彼はいそいで革ぶくろの上をナイフで切り、小さな穴を三つ四つつくりました。それからこんどは、革ぶくろの底を手ばやく紐でゆわえ、その紐のさきを左の手首にしばりつけました。一体彼は、こんなことをしてなにをしようというのでしょう。
 もちろんそれは、部下を助けるための一か八かのこころみだったのです。
 小浜兵曹長の用意はできあがったようです。
 と、見る間に、
「やっ――」
 と、小浜兵曹長はかけ声もろとも、機上から怪塔ロケットにはりわたした麻綱にぶらさがったのです。
 ああついに、麻綱には二人の勇士がぶらさがりました。綱はずっしりおも味をひきうけることになりました。はたして綱はこのようなおも味にたえましょうか、見ればその麻綱は、いまや怪塔の胴をむすんであるところで炎々ともえているではありませんか。
なんと危い光景ではありませんか。
 怪塔の胴をむすんである麻綱は、炎々ともえさかっており、しかもその麻綱には、わが二人の勇士がぶらさがって、おも味はたいへんふえています。麻綱はいまにも切れそうです。もし麻綱が、怪塔の胴のところからぷすりと切れたら、二勇士の生命は一体どうなるのでしょうか。
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