第3部 第83話 ストラップを外した日  

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私が朝起きたとき、いつも一番最初にするのは、携帯電話の電源を入れてメールをチェックすること。
その日もいつものように電源を入れてメールをチェックすると、「優さんからのカード」というタイトルのメールが届いていました。
「一体何だろう?」私はそう思いながらメールを開いて、そこに書いてあるURLにアクセスすると、現われた画面を見て、驚きで胸が一杯になりました。
そこには、とてもきれいなバラの花束の写真に、優からのメッセージが添えられていたのです。

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To:しおん
Happy Birthday!
いつまでも素敵でいてね

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それは、優から私へのバースデーカード・・・。
優は私の誕生日を覚えていて、カードを贈ってくれたのでした。
それにしても、私の誕生日なんて、いつ優に教えたっけ? などと思いながらも、私は感激で胸が一杯になっていました。
しかし、それと同時に、1年前の誕生日のこと・・・。
ケイが初めて私に逢いに来てくれたあの日のことが、鮮明に思い出されて来て、胸が少し痛むのを感じました。
実は、あのときにもらったケイから私への誕生日プレゼントであるお揃いの携帯ストラップは、そのときは、まだ付けたままだったのです。
何度か外そうとしては、そのたびに外せないでいた、大切にしていた思い出のストラップを、1年後の今日の終わりを告げる時間にやっと外そうという決心が、このときついたのです。

この日の朝も、いつものように私からメールをして、夜までに10通くらいはやり取りしたのですが、結局、今日が私の誕生日だということに、ケイは全く気付いていませんでした。
おそらく、もう記憶の片隅にさえないのでしょう・・・。
去年はあれだけ熱心に追いかけていたのに、興味がなくなってしまえばどうでもよくなる・・・。
人の気持ちなんて、たった1年の間に、こんなに変わるものだということを、改めて思い知らされた日でもありました。
何度もケイの気持ちを確かめようとして、そのたびに落ち込んでいた日々がよみがえる・・・。
これではっきりした。
もう何も確かめる必要がない。
あれこれ気にすることもないんだ・・・。
心を痛め続けた長く苦しかった時間が、やっと終わるのを感じていました。

午前0時になり、日付が変わった瞬間・・・
私は、携帯電話に付いていたストラップを外し、少しの間、見つめながら考えていました。
ケイとのこの1年は、一体何だったんだろう?
まるで夢の中にいるようだった・・・。 
次々に起きる出来事の数々に、一喜一憂し、翻弄された自分が滑稽にさえ思えてくる・・・。
でも、夢は、所詮夢でしかなかった。。。
摘み取られてストラップに加工されても、四ッ葉のクローバーは生きているらしく、
初めは鮮やかな緑色だったのが、1年の間に、随分と色褪せていました。
茶色がかったくすんだ色に変わってしまい、まるで、私達の心を映しているようにも
思える。。。
たとえ元の綺麗な色に戻れなくても、私にとって、大切なものだった・・・。
心の奥にそっとしまい込むように、取り出した箱の中にストラップを入れると、引き出しの奥の見えない場所へしまい込み、そっと扉を閉めたのです。
もう、ケイに対する未練も涙も胸の痛みも、なくなっていました。
ただ、ほんの少しだけ残った悔しさが、その後も傷口に触れるたびに現れて、私を困らせることがありましたが、それもいつしか月日の流れと共に、跡形もなく消えて行ったのです。。。

私が、本当の意味でケイへの気持ちに決別をした日は、皮肉にも、最初のデートから1年後の、私の誕生日だったのです。

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『朝起きたとき、いつも一番最初にするのは、携帯電話の電源を入れてメールをチェックすること』
彼女は、夜、携帯の電源をわざわざ切って寝るのですね。不思議な人ですね。
普通は緊急の連絡とか、アラーム機能を使うために、わざわざ切る人はまずいないのですが・・・。
夜遅くにメールなどが来て、英治さんに怪しまれるのを防ぐためでしょうか?
でも、英治さんはふだんは今に帰ってこないはず。。。 そうだとすると・・・?

そして、優からのバースデーメール。 やっぱりこの人は抜け目がない(苦笑)。
それに対して、ケイはなんとおマヌケなんでしょう。
友達としてのつきあいが細々と続いているにも関わらず、しかもほんの去年のこと
なのに・・・。
忘れたのではなく、わざと触れなかったのだと思いたいのですが、その一方で、彼女がどんな想いで悶々としていたかを考えれば、やはり一言、「おめでとう」ぐらい言うべきだったと思います。
ただ、これは2006年2月のことで、それから3年経った今でも、ケイとは年に1、2回飲みに行く仲が続いていて、飲みに行った時の様子が現在進行形の彼女のブログに書かれています。
そこでのケイの言動を見ると、やはりこのとき彼女の誕生日のことは忘れていたのだと思えるのです。
ケイは、やっぱりその程度の男なのでしょう。

一方の優との関係も、このとき凝ったバースデーカードをもらいながら、彼女は電話はせずに、優からも電話は結局来ないまま、なんとも不思議な状態が続くのです。
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第3部 第82話 繋いでいく心  

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優は、本社勤務になってからというもの、明らかに仕事が忙しくなっているようでした。
メールが来ない日が何度か続くことがあったり、遅い時間にまだ会社にいて仕事をしていたり・・・。
何よりも、電話が全く来なくなっていました。
優の声が聴きたい・・・。そう思っても、優への電話の催促も、私からの電話も出来ません。。。
普通の恋人同士とは違うのだから、それが宿命だというのはわかっていたことだし、我慢するのが当たり前なのだと、言い聞かせていました。

私はこの頃、例の出会い系サークルで知り合った、真樹ちゃんという女性と仲良くなっていて、英治のことや優のことをメールでよく話していたし、彼女の相談にも乗ってあげたりしていました。
携帯のメールアドレスを教え合って、お互いの写メを送ったこともあります。
真樹ちゃんは、口にすることさえためらってしまうような信じられない辛い過去があって、今もかなり辛い境遇にいるにも関わらず、他人を思いやることの出来る、本当に気持ちの優しい女性でした。
彼女は、優から電話が来ないと言って寂しそうにしている私のために、一度電話をくれたことがありました。
そんな支えもあったからこそ、私は寂しさにも耐えていられたのですが、真樹ちゃんが一昨年体調を崩して入院して以来、音信不通になってしまっていて、今は元気でいるのかさえわからない状態になってしまっています。

「しおんに好きになってもらえる男になるように、仕事にそして自分を磨いていくことに、頑張るよ。」
メールに書かれていた優の言葉を思い出しながら、真樹ちゃんや他の人にも支えてもらいながら、たとえ住んでいる距離は離れていても、心だけは離れてしまわないように、これからもしっかりと繋いでいこうと、私は自分自身に言い聞かせていました。

優からの電話が来ないまま、年が明けた2006年1月・・・
例の出会い系サイトの中で、真樹ちゃんが管理人になっていた楽しくてためになるサークルも解散になってしまい、寂しい日々を過ごしていた私が次にチャレンジしたのは、コンテンツの中にあるチャットでした。
それが、私にとってのチャット初体験です。
そのときに知り合った大阪のヒロは、しっかりした考えの持ち主で、私にとって頼りになる弟のような存在になってくれていました。
深刻な話から思い切り笑えるような楽しい話まで、幅広くいろいろと話せる間柄になれたのです。
大阪人にしてはおとなしい性格で大阪人らしくないと、本人は言うけれど、ヒロはやはり大阪人です。
チャットでは、最初のときからノリがよくて、私が慣れないチャットで文字を追ったりタイピングするだけでも精一杯だというときに、1人でボケとツッコミの両方をしてくれていました。
付け焼刃ではない、本場の大阪弁にも感動しました(笑)。

優から電話が来たのは、前回の電話から2ヶ月以上経った1月末のことでした。
それは優が飲み会からの帰りのときで、時間にしてほんの2〜3分だったと思います。それでも私にとっては、涙が出るほど嬉しかったのを覚えています。
でも私は、そんな自分の気持ちを素直に言葉にして伝えることが苦手で、いつも感情を決して表には出さずに淡々した口調で、さらっと流してしまうような、かわいげのない女なのです(涙)。
そんな私が、優からの次の電話までは、それ以上に長い期間待つことになるのです。

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これまでの流れがあって、彼女は優のことをまるで彼氏のように頼り、悩みごとなどを相談して、生きがいのように思っていますが、一方の優は、果たしてどういうつもりで彼女とつきあっているのでしょうか。
このとき本社に異動になって忙しくなったとはいえ、その気があれば、メールも電話もできると思うので(彼女が落ち込んでいるときにはすぐにメールを寄こすのだから)、やはり単なるネット上での友達レベルでしか彼女のことを考えていないと思えるのです。
優は、いろいろと彼女に期待を持たせたり、聞こえのいい言葉を言ってきましたが、それは夫の英治やケイなどのことで苦しみのなかにいる彼女を、さらに落ち込ませないための社交辞令でしょう。
久しぶりの電話を数分足らずで終えるなど、同じ男から見れば、やはり優も、誠実な男ではないと思えるのです。
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第3部 第81話 自分を磨いていくこと  

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私はこれまで、ケイのことを想い続け、つらいときには優に相談に乗ってもらっていました。
それに、ハルとの出会いと別れの経緯についても、優に話したことがありました。
掲示版で初めて優の書いた文章を読んだときに、ハルの文章にあまりにも似ていたから、黙って通り過ぎることが出来なかったこと・・・。
ハルがもう一度私の前に現われてくれたような、懐かしさと愛しさを感じていたこと・・・。
でも、時間が経つにつれて、私の中でハルと優とは全く違う人なんだと思えるようになってきたことも、電話での会話の中で打ち明けていたのです。
どちらも相手の心変わりによるもので、自分のほうから離れていったわけではないにしろ、私は2年足らずという短い期間の中で、2人の男性を想っていたことになります。
そんな私が、この先、優を好きになることがあったとしたら、優は一体どう思うのだろう?
「この先、私が優を好きになることがあっても、いいですか?」
メールにそう書き記した私は、優の返事が来るまで、長い1日を過ごしていました。

夜になって、いつものおやすみメールが届いたとき、私は胸がドキドキするのを感じながら、待ちわびた返事が書かれているメールを開くと、そこには短くこう書かれていました。
「しおんに好きになってもらえる男になるように、仕事にそして自分を磨いていくことに、頑張るよ。」
私の問いかけに対して、好きになってもいいか悪いかという答え方ではなく、好きになってもらえるように頑張ると、言ってくれた優の謙虚ともいえる心を、私は嬉しいと思いました。
私もまた、優に好きになってもらうために、自分を磨いていかなくてはいけない・・・。
でも、ありのままの私も好きになってほしい・・・。
そんな思いを感じていたのです。

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今このストーリーは、夫である英治の数々の悪行ですでに夫婦関係は壊れていて、彼女がネットの世界に心のよりどころを求めていき、そこでの出逢いを書いています。
振り返ってみると、2003年12月にハルと出逢い、わずか4ヵ月も持たずに2004年4月に別れ、5月にはケイと知り合い、翌2005年の2月に初めてケイと逢うも、その後関係がぎくしゃくし、そして今度は優と出逢い、今2005年秋。

前回も書きましたが、男にかまってもらわないと生きていけない彼女は、少しばかり優しくされると、すぐに心を奪われ、簡単に恋だの好きだの思ってしまいます。
そんな軽い彼女に対し、男のほうはそんなに簡単に不倫のようなことはできません。
(不倫が発覚して責任を取らされるのは、いつも男のほうですから・・・。)
彼女の思いを知れば知るほど、この女とつきあうと面倒なことになると思うのでしょう。
最初のハルも、次のケイも、最終的に男の方が振った悪者になっていますが、実際は彼女につきあいきれなくなったからでしょう。

そして、今回の優も、良いとも悪いとも言わずに、何とも巧みな言い方の返事です。
自分の責任を回避しつつ、彼女を傷つけないように、それでいて前向きな言葉で・・・。
やはり優は、女性の扱いに慣れた男です。
一方、彼女も「魔性の女」ですから、彼女の告白により付き合いが本格的に始まり、これから二人の駆け引きが見ものになります。
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第3部 第80話 引越しの日  

いよいよ優の引越しの日・・・

午後になって、全ての作業を終えた優から届いたメールを読んだ私は、とうとう優が実家へ帰るときが来たことを、悟ることになったのです。
単身赴任のときにも、私達が逢える見込みなど全くといっていいほどなかったけれど、これでますますその可能性がなくなってしまったことを、感じていました。
でも、それはそれで良いのかもしれない。。。

私はこれまで、ネットの世界で、奇跡ともいえる出会いをして来ました。

ハルと出会い、初めて芽生えた不思議な想い・・・。
そしてどうしようも出来ない別れの辛さを知り、苦しみの中にいるときにケイと出会い、心を通わせることが出来たおかげで、私の心にある辛さも苦しさも、いつの間にか全部思い出に変えることが出来た・・・。
そんなケイの気持ちもあっという間に見えなくなって、ずっと苦しんでいるときに、
今度は優に出会った・・・。
ハルにもケイにも、逢う機会はあったけれど、手を繋ぐこともなかったからこそ、
こうしていい想い出になっているのかもしれない・・・。
きっと、優とは逢えないからこそ、気持ちだけで繋がっているからこそ、どこか安心
できているのかもしれない・・・。
お互いが結婚をしているという事実を目の当たりにすると、やはり私は、どこか臆病になってしまうのです。

夜になって、優から、実家に着いたというメールが届きました。
変わってしまった優を取り巻く環境・・・。
それが影響して、後々、私達の距離は微妙に変わって行くことになるのです。
そしてやがては、声を聴くことさえ出来ない状態が続いて行くのです。

優と私の1日のメールのやり取りは、朝起きたときに優から来るおはようメール、
私の日中のメール、そして優からのおやすみメール、私からのおやすみメール・・・。
その他に、電話で話せるときには、優からの確認メール、それに対する私の返事メール・・・。
優の仕事が休みの日にはメールもお休み・・・。
だいたいがこのパターンでした。

優が転勤したばかりの頃は、私に電話をくれることが、週に一度くらいはありました。
しかし、そんな数少ない機会だというのに、私のほうが、電話を受けられる状態にはなくて、メールが来ていることに気付かなかったり、気付いた場合でも周囲に家族がいるときだったりして、泣く泣くあきらめたことも何度かありました。
優からの電話は、いつも仕事中だったり、飲み会の途中で抜け出したときや家に帰る途中だったので、あまり長くは話せないのですが、それでも電話をくれることがとても嬉しかったし、心が癒される時間でもあったのです。

しかし、そんな状態は1ヶ月も続かず、段階的に、私達の距離は遠くなっていくのです。
最初はいつの間にか電話が来なくなったことに始まり、メールがおやすみメールだけになり、やがてそれすら来ない日が続いたりしました。
残業が続いていて、優の帰りが遅いことはわかっていたので、私はそんな状態に寂しさを感じながらも、ひたすら我慢を続けていたのです。
それでも、時々どうしようもなく落ち込んだりすると、弱気なメールを送ってしまう私がいました。
そうすると優は、どんなに忙しいときでも、必ず優しい言葉のメールをくれるのです。
私は、そんな優の心がとても嬉しくてたまらず、優への想いが弱まるどころか、ますます強いものになっていくのを感じていました。

ある日のこと・・・
優にメールを送ったときに、私はこう書き記しました。
「この間、私がケイの気持ちを確かめたとき、友達として付き合っていこうって言われた。それでやっと気持ちを切り替える決心がついた。
 お揃いの携帯電話に、お揃いのストラップを見ると、まだ心が痛くて、どうしようもなくなるときがある。
 だから、まだ自分の気持ちがどうなるかはわからないけど、
 この先、私が優を好きになることがあっても、いいですか?」

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前回優は、あれだけ彼女の気持ちを惹きつける言葉を言っておきながら、転勤になり実家に戻ったら、どんどん疎遠になっていきます。
やはり女性とのつきあいに慣れているから、ああいう言葉をすらっと言えるのでしょうね。
残業で忙しくても、本当にその気があればメールはできるはずです。
しかし、家で妻が待っているという負い目があるから、疎遠になるのです。
それなのに、彼女からの弱気なメールには、すかさずフォローします。
実に巧みですよね。

男にかまってもらわないと生きていけない彼女は、そんな優に心を奪われ、またまた恋愛感情を持ってしまいます。
ハルといい、ケイといい、ネットで知り合った人にこうも簡単に恋だの好きだの思ってしまう彼女は、やはり性格的に歪んでいるとしか思えないのです。

彼女からの思いもかけない告白に、果たして優はどういう返事をするでしょうか・・・。
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