第3部 第70話 真美の思い  

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真美と均の交際を、自分の本心とは裏腹に、形式上とはいえ認めることになってしまい、私は、毎日が砂を噛むような思いでした。
それだけではありません。
英治とさちえのこと、そしてケイとのこと・・・、どれもそれぞれの感情が絡んだ、解決しがたい問題で、私のストレスは増すばかりだったのです。

均に会ってからというもの、真美から均の話が出ると、イライラしてしまうあまり、不機嫌さをあらわにして、つい本音が口をついて出るようになりました。
凍りついたような気まずい雰囲気になり、悲しそうな顔をして部屋を出て行く真美・・・
悪いとは思いながらも、感情を抑えきれなくなる自分・・・
そんな悪循環から逃れるようにして、いつしか私達は均の話題を極力避けることが、暗黙の了解のようになっていきました。
それも初めの頃よりか、2年、3年と付き合いが長くなるに従って、ますますその傾向が強くなっていったような気がします。
均はすっかり婚約者気取りでいるせいか、真美の進路について、親である私達よりも口出しをしたり、あれこれ関わってくることがたまらなく不快で、ますますイライラが大きくなる原因になっていたのです。
均の話題を避けているということは、つまり真美が均に対して我が家の家族に関することをどれだけ話しているかも、知らないでいました。
なので、頭を悩ませていた英治とさちえのことまで、均に話しているという事実を知らされたときは、さすがにショックが大きくて、情けない気持ちになりました。
真美にとっては、自分の父親が家族に嘘をついてまで、他の女性に援助していることが、相当ショックだったからこそ、心を許した均に話していたのでしょう・・・。
そんな真美の気持ちが、爆発する出来事が起きるのです。

夏休みに入ったある日・・・
真美は、こんなことを言い出しました。
「お父さんに、さちえとのことをやめるように話す。もしやめないんだったら、私がプチ家出をするって言う。」
真美は、子供である自分が、さちえとの件を知っていること、家出まで考えていることを話すことによって、英治が考えを改めてくれるのではないかと思ったようです。
でも、ちょっと待って・・・。
そんなことをしたところで、自分が悪かったなどと素直に反省するような人ではない。
英治という人は、たとえメールという証拠を見たと言っても、絶対にシラを切って事実だとは認めないばかりか、自分の態度を改めることもないだろう・・・。
結果的に、何の解決にもならないのは目に見えている。
しかし、真美にも頑固なところがあって、言い出したら聞かないし、自分の考えを曲げないのです。
やめるように説得する私の気持ちとは裏腹に、それが現実のものとなるときが近づいていました。

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彼女は、はっきりいって真美の母親としては、無能に近いですね。
今までは子供たちが小さかったから、かわいいとか愛おしいという気持ちだけで面倒を見ていればよかったのですが、年頃に成長した今は、親として適切な判断と方針を示さなければならない時期なのです。
しかし、自分自身が男にかまってほしくて、ネットで出逢った男たちと恋だの何だの言っているくらいですから、真美の交際相手を知って、均がどんなにがっかりな男だとしても、それを諭すどころか、自分が感情的になりイライラして不機嫌さをあらわにするとは、まったく親らしからぬ態度です。

『凍りついたような気まずい雰囲気になり、悲しそうな顔をして部屋を出て行く真美・・・』
そしてまた真美も、そんな母親らしくない態度に失望します。
真美は、それこそ小学4年のときの母親である彼女の家出騒動のときも、いい迷惑を受けていますし、そのころから、父親のダメぶりを聞かされています。

『均の話題を避けているということは、つまり真美が均に対して我が家の家族に関することをどれだけ話しているかも、知らないでいました。』
さらに、均の話題をすれば、母親はイライラして不機嫌になり、話にならないのでは、いろんな相談事も均にするしかないのも当然です。

『お父さんに、さちえとのことをやめるように話す。もしやめないんだったら、私がプチ家出をするって言う。』
ダメな父親に、母親が言っても聞かないのなら、娘である自分が言ってみようというのも、子供なら当然の考えで、母親と違って(?)気が強い性格の真美ならではの行動力でしょう。
ただ、悲しいかな、あまり賢くないようで、プチ家出なんていうことしか考えが浮かばなかったのでしょう。
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第3部 第69話 心の迷路  

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実はそれまでも、ケイの気持ちに問いかけるようなメールを何度か送ったことがあったのですが、
いつも曖昧な返事をされるか、スルーされてしまうかのどちらかで、ケイの気持ちが一向に見えて来ませんでした。
「お揃いの携帯電話とストラップを持っている意味が、全くわからなくなってしまっている・・・。」
私のそんな気持ちも、理解してもらえていないようでした。

このときケイに送ったメールは、いろいろ考えた末に、私なりにケイの気持ちを理解しようとして、言葉を選んで書いたつもりでした。なのに、迷惑と言わんばかりに、
「オレのことを、全部わかったようなこと言わないで・・・」
そんな言葉が、返ってきてしまったのです。
ショックでした・・・。
私なりに言葉を尽くしたつもりでも、もう以前のようにケイに伝わることなく、ただ自分の気持ちが空回りするだけ。。。
一体どうしたらいいのか、わからなくなってしまっていました。

この苦しみから逃れるためには、自分の気持ちを整理して、ケイへの想いを断ち切るしかない。。。
そう決心して、携帯電話のストラップを外そうとしても、あの誕生日の日のことが鮮明に浮かんで来る。
私の携帯電話にストラップを付けてくれたときの、ケイの嬉しそうな顔を思い出すと、涙が溢れてきて、外すことが出来なくなってしまう・・・。
もうケイの気持ちは、私にはないのかもしれないのに、それでもケイのことが好きだった私は、迷路に迷い込み、出口を探してもがいていました。

さらにちょうどこの頃、私は、以前に書いた英治のことや娘の真美のその後のことでも、これでもかというくらいに、次から次へと問題を抱え込んで、情緒不安定な時期でした。

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曖昧な返事やスルーしてしまうケイの真意はわかりませんが、最初のデートの時と比べ、もうすっかり気持ちが冷めているうえ、そんなに真剣に深刻に付き合おうとは、もともと思っていなかった。。。
なのに、しつこいくらい何度も気持ちを聞かれ、まるで心を読んだかのような文章を、彼女が書いてきたのではないでしょうか。
だから、『オレのことを、全部わかったようなこと言わないで・・・』という返事になったのだと、同じ男として推測できます。
既婚者が、ネットで知り合った異性とどういうスタンスでつきあうのかが、彼女とケイでは、全くズレていたのだと思います。
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第3部 第68話 優のサークル退会  

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翌日になり、サークルのサイトを覗いたときに、予告通り優が退会しているのに気づいた私は、
唯一胸の内を明かせる人がいなくなった寂しさを、感じていました。
それでも、優とは携帯メールのやり取りでの付き合いが、続いていったのです。

初めて電話で話してからというもの、優と私は、度々電話で話すようになっていました。
「声聴けるかな?」というメールに対して、私がOKの返事をすると、優から電話がかかってくるのです。
当時優は単身赴任でしたので、電話をかけ易かったのだと思います。
それが嬉しいと思える反面、私は内心、サークルの管理人である亜希子さんの存在が気になっていました。

優は亜希子さんと付き合っているのではないのか?
その上で、私に電話をくれるのはなぜ?

メールのやり取りの中でも、電話で話してみた感じでも、優は確かに優しい人だと思う。
しかし、それを違う角度から考えてみると、ただ単に女性の扱いに慣れているからのような気もしました。
優の話し方や受け答えを聞いていると、そう思わせる要素が、確かにいくつかあるのです。
優は、亜希子さんと何度かメールやメッセでのやり取りをしていたようでしたが、
特別な感情を持つには至らなかったということを、話していました。
私は、それを信じようと思っていても、実は心のどこかに、ずっと疑念として引っ掛かっていたのです。
それに、そのときの私の心の中には、まだケイに対する想いがあったのです。
なので、優との電話の会話の中でも、ケイのことに関する相談もしていました。
そんな私の相談に対しても、いつも優しく答えてくれる優でしたが、時々ふっと、自分から話題を変えて会話をそらすときがありました。
そんなときには、私も素直に優の話に合わせるようにしていたのです。

その後ケイとは、7月に入った頃から、電話がめっきり減ってしまっていました。
この時期、ケイの仕事が忙しくなってしまったので、今までのように気軽に私のほうから「電話して」とは言いにくくなったというのも理由のひとつでしたが、しかしそれだけでは済まなかったのです。
辛い気持ちに追い討ちをかけるように、減ってしまったもの・・・、それは、ケイからのメールの数。
以前は、朝一でメールをくれるのは、いつもケイのほうから。
私の返事が少し遅れようものなら、「どうした?」というメールが来るほどの焦りよう・・・。
それが今では、私のほうからメールをしないと、メールのない1日で終わってしまいそうでした。
寝る間際までメールのやり取りをしていたのも、全くといっていいほどなくなっていて、
たとえ私のほうからメールを送ったとしても、ケイからの返事が途切れがちになる。。。
その一方でケイは、サイトへの書き込みやチャットなどは、いつも通りにしているのです。
来ない返事をずっと待っているという状況に耐えられず、いつしか私は、自分がメールを止めてしまうことにして、
その辛さから逃れるようになっていました。
そんな中で、電話の催促など出来るわけはなく、ケイの声が聞けない日が続いていきました。

ケイとお揃いの携帯電話とストラップを眺めるたびに、あの日のことを思い出し、胸が苦しくなってしまう。。。
ケイが、自分とお揃いのストラップを持って、私に逢いに来てくれた誕生日の日・・・
あのときに感じた、真っ直ぐで強いケイの想い・・・
すべてがつい数ヶ月前のことなのに、短い期間でこんなに変わってしまうなんて・・・。

悲しくて苦しくて、どうしようもなくなった私は、今日こそケイの気持ちを確かめようと思い、
何度も直して、やっと書き上げた長いメールを、送ることにしたのです。

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ケイへの気持ちを残したまま、優へはまっていく彼女。
ハルのときは、初めてのネットでの出逢いで、何もわからずに恋に落ちていった。
ケイのときは、第一印象最悪で、ふざけた会話から、恋に落ちていった。
3度目の今回は、ケイのことでの悩み相談から、つきあいが始まっていきます。
しかし、彼女も感じているように、自分から話題を変えて話をそらすなんて、優はやはり女性の扱いに慣れていますね。。。
一方の、ケイは、もう完全にフェードアウト状態。。。
対照的な2人の男性の性格が、この後もしばらく対比するかのように書かれていきます。
それを読んでいくと、彼女はどういう男性が好みなのか、男性とどのようにつきあいたいのか、そして彼女の人生の生き方や歩み方が、やはり見えてこないのです。
自分が主体的に生きていくのではなく、やはり相手に合わせて受動的に頼って生きていくタイプの人間なのでしょう。

彼女が書いたメールに、果たしてケイは、どういう返事をするのでしょうか・・・。
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第3部 第67話 初めての電話  

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優からの思いがけない言葉と、添えられていた携帯の電話番号を見て、私は驚きと戸惑いを感じていました。
「声が聴きたい・・・」
少し前まで、私にそう言ってくれていたのはケイ。
今でも、私が一番にそう言ってほしいのはケイ。
それなのに、もう聞くことがなくなってしまった・・・。
そんな寂しさと、ハルにどこか似ているような懐かしさを感じる言葉と優しさに触れて、
優と話してみたいという思いが、私の心一杯に広がっていました。

私は電話の子機を手に取ると、非通知の184を押して、メールを見ながら、優の電話番号を押していたのです。
もしもこのとき、ケイとの仲が以前のような形で続いていたら・・・、オフ会でのことがなかったら・・・、
私は優に電話をしていなかったかもしれません。
初めて優に電話をかけるという緊張感で、胸の鼓動が早くなるのを感じていました。

3回ほどコール音が鳴った後に、少し不機嫌そうな感じで、「はい?」
という男性の声・・・。
まさか電話番号を間違えた?
胸の鼓動が一気に高まるのを感じながらも、恐る恐る「もしもし・・・」と言うと、
それは少し驚いたような優しい声になりました。
「しおんか?」
「そうだよ」 
「おー、本当にしおんなのか? ごめんな、同居なのに無理言って・・・。
 まさか電話がもらえると思ってなかったから、ちょっとびっくりした・・・。
 すごく嬉しいよ。ありがとう。 今、少し話せるか?」

優は、とても感じのいい声で、優しく語りかけるような話し方をします。
私は思わず心が和むのを感じながら、
「大丈夫だよ。えっと・・・、電話では初めましてだよね。」
確かこんなふうに会話が始まったと記憶しています。
それから、あれこれとサークルの話をしました。
優は、サークルの雰囲気が変わってしまっておもしろくなくなったし、ついていけなくなったから、どうしようかと言っていましたが、やがて意を決したように、
「俺、やっぱりサークル辞めることにするよ。サークルは辞めるけど、これからも、しおんとのメールは、続けて行きたいと思ってる・・・。だから、よろしくな・・・。」

それから少し会話をした後、
「俺の携帯のアドレスをメールするから、それが届いたら、しおんの携帯のアドレスと電話番号を教えてくれないか?
 今から送るから、ちょっと待ってて・・・」
優がそう言って電話を切ると、すぐにパソコンに携帯のアドレスが書かれたメールが届きました。
私は、携帯にそのアドレスを登録した後、電話番号を書いて、優の携帯に送信したのです。
すると今度は、携帯のアドレスのほうに、
「しおんの顔がみたいから、写メを送ってほしい。」というメールが届きました。
どうやら、優は少し酔っているようです。
私の声を聴きたいと言ったのも、写メをみたいと言っているのも、酔っているせいのような気がしてなりません。
私は「優が先に送ってくれるのなら、見せてあげる。」そう返事をすると、
少ししてから、本当に優の写メが送られて来ました。
その写メは、サングラスをかけた優の横顔。。。
「これだと顔が見えないから、私の写メは送れないよ。」と返事を書くと、
今度は正面からの写メを送って来たのです。
やはりサングラスをかけていて、はっきりとは顔が見えませんでしたが、
整った顔立ちをしているような感じがしました。
私は、「後でもう一度、きちんと撮った写メを送って。」と書いたメールに自分の写真を添えると、
「一体、この写真を見た優は、どう思うだろうか?」
そう考えただけで胸がドキドキするのを感じながら、送信ボタンを押したのでした。
すると、すぐに来た優からの返事には、こう書かれていたのです。
「しおんって、かわいい・・・」

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彼女は、恥ずかしがり屋とか、人見知りをするとか、おとなしいとか、普段はそういう面を見せていながら、突然大胆な行動をとるのは、今までにも何回も出てきました。
そして今回も・・・。
まさに「魔性の女」の素が出て、新たな男である優に、直接的なアプローチをかけ始めます。

一方の優は・・・。
電話口で彼女だとわかると、コロっと態度を変え、そして、女慣れしている感じで話をして、さらには写メを希望します。
いかにもな男ですよね。
彼女も、もともとの性格が尻軽ですから、こういう誘い文句にもすぐに乗ってしまいます。
相手がサングラスをかけて素顔を見せないのに、自分の素顔を送るのは、いかにもな女ですよね。
そして、それに対する『かわいい』という優の返事も、手慣れています。
こういうときの返事のツボを、しっかり心得ていますよね。
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