第3部 第72話 もうひとつの理由  

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真美の行動を止めることができない空しさと、均に英治の件を知られていたことのショックで、私の気持ちは、前にも増して落ちていました。
均は真美を止めてくれるどころか、むしろ好都合とばかりに、煽っているようにさえ思える。。。
もしかしたら、初めから英治のことを口実にして、仕向けられたことなのかもしれない。。。
そう考えると、悔しくてたまらない・・・。
実際にホテルに泊まるのは真美1人だけだとしても、仕事が終われば、均も絶対に部屋に行くだろう・・・。
2人きりになったとしたら・・・。。。
それが真美をホテルに泊めたくない、一番の理由でした。

しかし、理由はそれだけではなかったのです。
それは、真美の持病のアトピー性皮膚炎のことでした。
一時期は症状がかなりひどかったのですが、たまに薬を塗るくらいにまでに落ち着いていたので、ずっと病院にも行かなくなっていたのです。
それが、春先から突然に悪化し、夏になって頻繁に汗をかくようになってからは、ますますひどくなる一方で、今までの薬が全く効かず、あっという間に全身が湿疹だらけになっていました。
顔はほっぺたを中心に赤くかぶれたようになり、耳は全体が皮がむけてボロボロ、痒さのあまり一日中身体をひっかいてしまうので、出血することもよくありました。
真美のシーツの上には、血のシミのほかに、剥けた皮膚が散乱し、毎朝取り除かないとならないほど・・・。
そんな真美を見るにつけ、何度、代われるものなら代わってあげたいと、思ったことでしょう・・・。
本当に胸が締め付けられる思いでした。
以前通っていた病院の先生が亡くなり、そのときは新しい病院を探している最中で、まだ希望の光が見えていないときでした。
真美がそんな身体で、ホテルに泊まるのを許可する気持ちになど、なれるわけがありません。
それでも、均が予約したビジネスホテルに、しぶしぶ車で連れて行くことになったのです。

ホテルは、駅から少し離れた街のはずれにあり、建物はまだ新しく、部屋もきれいでした。 宿泊代は既に均によって支払われていて、それが私の怒りをますます大きくしたのです。

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確かに、高校生の娘がホテルに泊まるとなると、均という彼氏の存在があるから、第一の理由にあげた「体の関係」を心配するのは、母親としてわかります。
しかし、第二の理由のアトピーは、なぜこれを理由に挙げているのか全く疑問です。
真美自身が、自分の体のアトピーを知られたくないから、均と一緒に泊まりたくないというのならわかります。
しかし、母親である彼女が、『真美がそんな身体で、ホテルに泊まるのを許可する気持ちになど、なれるわけがありません。』というのは、体の関係を持つのを前提にしていて、真美のこんな体を均が見たら驚くとか気味悪がるとでも思っているのでしょうか。。。
でも彼女は、真美と均の交際に反対しているのです。
もし、均が真美のアトピーの姿を見て嫌になって別れたら、逆に幸いなのではないでしょうか。

『それでも、均が予約したビジネスホテルに、しぶしぶ車で連れて行くことになったのです。』

そんな状況でホテルに泊まるのを許していないのに、なぜ真美を車で送って行ったのでしょうか。
断固反対して、「どうしても行くなら自分で勝手に行きなさい。送ってなんか行きません。」というのが、母親として当然だと思うのです。
反対しているのに送っていくとは、それを認めたようなものです。

結局、彼女は自分の考えというのが弱く、夫の英治の一連の行動もそうですが、相手のわがままを許してしまうのです。
真美も、このときの一件で、母親である彼女を見くびるようになっていきます。
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第3部 第71話 夏祭りのできごと  

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「今日はホテルに泊まる。もう予約も入れているから・・・」
プチ家出なんてやめるように説得していたにも関わらず、真美は、考えを変えることはなかったのです。
しかも 行き先がホテルだとは・・・。
「どこのホテル? それに宿泊費はどうするの?」
「ホテル○○。 お金は自分で出すし、明日には帰るから・・・。お願い・・・、思い通りにさせて。」
真美はそう言うと、荷物の準備を始めました。

何ということだろう・・・。
その日は隣の宮古市で夏祭りがあって、均がスタッフの一員で参加するという話は聞いていました。
ホテルを予約したのは均だという・・・。
私は、怒りが込み上げてくるのを感じました。

一体どういうつもりなのか?
私は真美の外泊を許可していない。それなのに、高校生の真美をホテルに泊めるなんて。。。
初めから計画的に仕組まれていたのでは?
そんなふうに考えざるをえない。。。

とにかく均と話さなければと思い、5月に喫茶店で会った際に聞いていた均の携帯に電話をかけたのです。
何回かの呼び出し音の後、均の声がしました。
「はい、篠田でございます。」
「上原です。」
私からの電話だとわかると、均は丁寧に挨拶してきました。
イライラする気持ちを抑えながら、私は話を切り出しました。
「今夜、真美がホテルに泊まると言ってますけど、うちでは許可したつもりはありません。 言うことを聞かなくて、困っているんです。何とかやめるように、説得してもらえませんか?」
私が困惑して頼んでいるというのに、均にはそれが通じないのか、あくまで真美の肩を持つように、
「真美さんから、お父さんのお話を聞いております。真美さんも、心を痛めているようです。帰りたくないと言うので、私がホテルの部屋を取りました。」
あっさりと、そう言いのけました。

独身で、しかも女子高校生と本気で結婚を考えるような男に、未成年の娘を心配する親心など、わかるはずがないのでしょう。。。
真美が家を離れて、今夜ホテルに泊まるのは、均にはむしろ好都合な話とも言える。
それにしても、均には知られたくなかった、英治とさちえの話を真美していたことがわかって、私は面食らっていました。

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住んでいる地域近辺で最大の街である宮古市の夏祭りの日に、ホテルをとって泊まる・・・。これが真美の考えている『プチ家出』とは、大笑いです。
家とホテルは、車で40分程度の距離ですから、いくらJRやバスなどが本数が少なくて不便であっても、通常なら泊まるような状況ではありません。
しかし、夏祭りの日ですから、祭りでの知人との交流や打ち上げなどもあって、仮に外泊しても許される特別な日です。

その一方で、自分で娘を説得できなくて均にお願いする彼女のバカ母親っぷりも呆れますね。

『独身で、しかも女子高校生と本気で結婚を考えるような男に、未成年の娘を心配する親心など、わかるはずがないのでしょう。。。』

均から自分の思うような返事がこなかったことで、均のことは悪口を言いたい放題。
なんと自分勝手な考えしかできないんでしょうね。
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第3部 第70話 真美の思い  

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真美と均の交際を、自分の本心とは裏腹に、形式上とはいえ認めることになってしまい、私は、毎日が砂を噛むような思いでした。
それだけではありません。
英治とさちえのこと、そしてケイとのこと・・・、どれもそれぞれの感情が絡んだ、解決しがたい問題で、私のストレスは増すばかりだったのです。

均に会ってからというもの、真美から均の話が出ると、イライラしてしまうあまり、不機嫌さをあらわにして、つい本音が口をついて出るようになりました。
凍りついたような気まずい雰囲気になり、悲しそうな顔をして部屋を出て行く真美・・・
悪いとは思いながらも、感情を抑えきれなくなる自分・・・
そんな悪循環から逃れるようにして、いつしか私達は均の話題を極力避けることが、暗黙の了解のようになっていきました。
それも初めの頃よりか、2年、3年と付き合いが長くなるに従って、ますますその傾向が強くなっていったような気がします。
均はすっかり婚約者気取りでいるせいか、真美の進路について、親である私達よりも口出しをしたり、あれこれ関わってくることがたまらなく不快で、ますますイライラが大きくなる原因になっていたのです。
均の話題を避けているということは、つまり真美が均に対して我が家の家族に関することをどれだけ話しているかも、知らないでいました。
なので、頭を悩ませていた英治とさちえのことまで、均に話しているという事実を知らされたときは、さすがにショックが大きくて、情けない気持ちになりました。
真美にとっては、自分の父親が家族に嘘をついてまで、他の女性に援助していることが、相当ショックだったからこそ、心を許した均に話していたのでしょう・・・。
そんな真美の気持ちが、爆発する出来事が起きるのです。

夏休みに入ったある日・・・
真美は、こんなことを言い出しました。
「お父さんに、さちえとのことをやめるように話す。もしやめないんだったら、私がプチ家出をするって言う。」
真美は、子供である自分が、さちえとの件を知っていること、家出まで考えていることを話すことによって、英治が考えを改めてくれるのではないかと思ったようです。
でも、ちょっと待って・・・。
そんなことをしたところで、自分が悪かったなどと素直に反省するような人ではない。
英治という人は、たとえメールという証拠を見たと言っても、絶対にシラを切って事実だとは認めないばかりか、自分の態度を改めることもないだろう・・・。
結果的に、何の解決にもならないのは目に見えている。
しかし、真美にも頑固なところがあって、言い出したら聞かないし、自分の考えを曲げないのです。
やめるように説得する私の気持ちとは裏腹に、それが現実のものとなるときが近づいていました。

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彼女は、はっきりいって真美の母親としては、無能に近いですね。
今までは子供たちが小さかったから、かわいいとか愛おしいという気持ちだけで面倒を見ていればよかったのですが、年頃に成長した今は、親として適切な判断と方針を示さなければならない時期なのです。
しかし、自分自身が男にかまってほしくて、ネットで出逢った男たちと恋だの何だの言っているくらいですから、真美の交際相手を知って、均がどんなにがっかりな男だとしても、それを諭すどころか、自分が感情的になりイライラして不機嫌さをあらわにするとは、まったく親らしからぬ態度です。

『凍りついたような気まずい雰囲気になり、悲しそうな顔をして部屋を出て行く真美・・・』
そしてまた真美も、そんな母親らしくない態度に失望します。
真美は、それこそ小学4年のときの母親である彼女の家出騒動のときも、いい迷惑を受けていますし、そのころから、父親のダメぶりを聞かされています。

『均の話題を避けているということは、つまり真美が均に対して我が家の家族に関することをどれだけ話しているかも、知らないでいました。』
さらに、均の話題をすれば、母親はイライラして不機嫌になり、話にならないのでは、いろんな相談事も均にするしかないのも当然です。

『お父さんに、さちえとのことをやめるように話す。もしやめないんだったら、私がプチ家出をするって言う。』
ダメな父親に、母親が言っても聞かないのなら、娘である自分が言ってみようというのも、子供なら当然の考えで、母親と違って(?)気が強い性格の真美ならではの行動力でしょう。
ただ、悲しいかな、あまり賢くないようで、プチ家出なんていうことしか考えが浮かばなかったのでしょう。
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第3部 第69話 心の迷路  

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実はそれまでも、ケイの気持ちに問いかけるようなメールを何度か送ったことがあったのですが、
いつも曖昧な返事をされるか、スルーされてしまうかのどちらかで、ケイの気持ちが一向に見えて来ませんでした。
「お揃いの携帯電話とストラップを持っている意味が、全くわからなくなってしまっている・・・。」
私のそんな気持ちも、理解してもらえていないようでした。

このときケイに送ったメールは、いろいろ考えた末に、私なりにケイの気持ちを理解しようとして、言葉を選んで書いたつもりでした。なのに、迷惑と言わんばかりに、
「オレのことを、全部わかったようなこと言わないで・・・」
そんな言葉が、返ってきてしまったのです。
ショックでした・・・。
私なりに言葉を尽くしたつもりでも、もう以前のようにケイに伝わることなく、ただ自分の気持ちが空回りするだけ。。。
一体どうしたらいいのか、わからなくなってしまっていました。

この苦しみから逃れるためには、自分の気持ちを整理して、ケイへの想いを断ち切るしかない。。。
そう決心して、携帯電話のストラップを外そうとしても、あの誕生日の日のことが鮮明に浮かんで来る。
私の携帯電話にストラップを付けてくれたときの、ケイの嬉しそうな顔を思い出すと、涙が溢れてきて、外すことが出来なくなってしまう・・・。
もうケイの気持ちは、私にはないのかもしれないのに、それでもケイのことが好きだった私は、迷路に迷い込み、出口を探してもがいていました。

さらにちょうどこの頃、私は、以前に書いた英治のことや娘の真美のその後のことでも、これでもかというくらいに、次から次へと問題を抱え込んで、情緒不安定な時期でした。

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曖昧な返事やスルーしてしまうケイの真意はわかりませんが、最初のデートの時と比べ、もうすっかり気持ちが冷めているうえ、そんなに真剣に深刻に付き合おうとは、もともと思っていなかった。。。
なのに、しつこいくらい何度も気持ちを聞かれ、まるで心を読んだかのような文章を、彼女が書いてきたのではないでしょうか。
だから、『オレのことを、全部わかったようなこと言わないで・・・』という返事になったのだと、同じ男として推測できます。
既婚者が、ネットで知り合った異性とどういうスタンスでつきあうのかが、彼女とケイでは、全くズレていたのだと思います。
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