今日、大学宛に集英社から天野純希(あまの・すみき)氏の書き下ろし小説『風吹く谷の守人』(ISBN978-4-08-775405-6 ¥1,575)の新刊本が2冊届きました。本の帯には「戦国期を駆け抜けた少女の過酷な運命を描く歴史長篇」「織田信長と越前一向衆の熾烈な戦い。封印された記憶を抱えた少女は、起ち上がる。仲間を守るため、己の過去に打ち勝つために。」「天正元年(1573年)。吹き荒れる一向一揆衆弾圧のため、信長軍が越前に侵攻する。信仰の名のもと、戦いに駆り出され、命を落としていく数多の罪なき民。蹂躙され尽くす、のどかだった村々。何処からか流れ着いた少女は起ち上がる。大切な仲間たちを守るため、封印された己のおぞましい過去に立ち向かうために―。」といった言葉が並んでいます。
なぜ、この本が加藤の所に届いたのかというと、この長編小説の舞台が戦国時代の越前(福井)ということで、登場人物のセリフ(福井方言)のチェックの仕事をしたからです。
昨年9月30日に突然、集英社文芸編集部のK氏からメールで依頼がありました。依頼の内容を要約すると、「来春刊行の予定で、戦国期の越前を舞台にした長篇小説の発刊を進めている。著者は、集英社の第20回小説すばる新人賞を受賞して作家デビューした天野純希氏で、最近注目されている若手歴史小説家の一人(1979年生まれの32歳)。ただ、天野氏は名古屋の出身のため、越前地方の方言については、方言辞典や集英社校閲部でチェックはしているが、専門家で越前地方の方言をよく知っている人に目を通してもらうのが確実かと考えた。石川県出身の編集部員から加藤の名前を聞いたので頼めないか」といったものでした。ドラマや映画で言えば方言指導のような仕事です。
この種の仕事は初めてで(ドラマや映画、クイズ番組等で取り上げる個別の方言についての問い合わせはよくありますが)、忙しい中で引き受けるべきかどうか迷いましたが、誰にでもできる仕事ではないし、正直面白そうだとも思い、結局引き受けることにしました。
出来上がりで327ページ(原稿用紙で500枚程度)の長篇小説。当初予想したよりもはるかに多い福井方言のセリフのチェックに相当時間を要してしまいましたが、何とか12月5日にすべてのチェックを終えて編集部に送ることができました。その後、年内に校了したとの知らせがあり、年が明けて1月26日発売予定と決まり、今日、加藤の所に一足早く届いたわけです。
舞台が戦国時代の越前なのに、その時代の越前方言を再現する手立てはなく、結局現代風の福井方言に直さざるを得ないことに一抹の抵抗はありましたが、そこは所詮フィクション、小説と割り切りながら、それでも研究者としての良心で、登場人物の身分、職業、年齢、性別なども考慮しながら、できる限り登場人物のセリフを福井方言らしくしたつもりですが、武士のことばはいわゆる武士言葉風のままにせざるを得ず、ある意味妥協した箇所も多くありました。
そして、本に挟まれてきた作者・天野純希氏の手紙に「作品の都合上、ご指摘に添えない部分もありましたが、何卒ご容赦下さい。」とあったように、私が直した方言が採用されなかった部分も少なくなく、悪く言えば統一感に欠ける方言になっている面は否めません。
そんなわけで、編集のK氏と相談し、方言監修として私の名前を出すことは控えることにしました。それでも、読んでいただくと、それなりに小説の舞台、越前の雰囲気が登場人物のセリフから感じていただけるのではないかと思います。
ちなみ加藤の実家のある越前市西部(旧南条郡坂口村)は、織田信長の軍勢が越前に侵攻するとき、越前海岸の河野浦から上陸した軍勢が通過した場所と言われており、その場面を読みながら戦国時代の実家付近の様子に思いを馳せていました。
こういう仕事を頼まれるのは、これが最初で最後になるような気がしますが、越前を舞台にする以上、登場人物のセリフをできるだけ福井方言に近づけたいという作者と編集者の誠実な姿勢に拍手を送りたいと思います。
2冊いただいたので、1冊は書棚に、1冊は貸し出し用にしますので、歴史小説ファンの方は加藤までご連絡下さい。もちろん買っていただいてもいいのですが…。
以下が本の表紙の写真です。


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