レステイホテルズDEEの噂  

あの……
画家 それはどうも――失礼します。(また行く。)
夫人 (一歩縋る)先生、あのここへいらっしゃりがけに、もしか、井菊の印半纏を着た男衆にお逢いなさりはしませんでしたか。
画家 ああ、逢いました。
夫人 何とも申しはいたしません?……
画家 (徐に腕を拱く)さあ……あの菊屋と野田屋へ向って渡る渡月橋とか云うのを渡りますと、欄干に、長い棹に、蓑を掛けたのが立ててあります。――この大師の市には、盛に蓑を売るようです。その看板だが、案山子の幟に挙げたようでおかしい、と思って、ぼんやり。――もっとも私も案山子に似てはいますが、(微笑む)一枚、買いたいけれども、荷になると思って見ていますと、成程、宿の男が通りかかりました。
夫人 ええ、そうして……
画家 ああそうです。(拱きたる腕を解く)……「そこに奥さまがおいでです。」と言って行き過ぎました。成程……貴女の事でしたか。お連になって一所に出掛けたとでも思ったでしょう――失礼します。
夫人 まあ、先生。……唯今は別々でしたけれど、昨夜おそく着きました時は、御一所でございましたわ。


彼女がいたことがない
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