(無題)

2012/11/6 
私はこれから書き方を変えなければならぬような気がする。なぜならば私が女性に対して用意していた芸術と哲学との理論は、一度私が恋してからなんだか役に立たなくなったように思われるからである。私はじつに哲学も芸術も放擲して恋愛に盲進する。私に恋愛を暗示したものは私の哲学と芸術であったに相違ない。しかしながら私の恋愛はその哲学と芸術とに支えられて初めて価値と権威とを保ち得るのではない。今の私にとって恋愛は独立自全にしてそれみずからただちに価値の本体である。それみずから自全の姿において存在し成長することができるのである。私の形而上学上の恋愛論はそれが私に恋愛を暗示するまで、その点において価値があったのである。一たび私が恋に落ちたとき、恋愛は独立に自己の価値を獲得したのである。私は私の恋愛論の完全をいかにして保証することができよう。私にはその自信はない。

復縁するには 元カノ
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(無題)

2012/10/29 
信子はこの従兄の大学生と、昔から親しく往来してゐた。それが互に文学と云ふ共通の話題が出来てからは、愈親しみが増したやうであつた。唯、彼は信子と違つて、当世流行のトルストイズムなどには一向敬意を表さなかつた。さうして始終フランス仕込みの皮肉や警句ばかり並べてゐた。かう云ふ俊吉の冷笑的な態度は、時々万事真面目な信子を怒らせてしまふ事があつた。が、彼女は怒りながらも俊吉の皮肉や警句の中に、何か軽蔑出来ないものを感じない訳には行かなかつた。
 だから彼女は在学中も、彼と一しよに展覧会や音楽会へ行く事が稀ではなかつた。尤も大抵そんな時には、妹の照子も同伴であつた。彼等三人は行きも返りも、気兼ねなく笑つたり話したりした。が、妹の照子だけは、時々話の圏外へ置きざりにされる事もあつた。それでも照子は子供らしく、飾窓の中のパラソルや絹のシヨオルを覗き歩いて、格別閑却された事を不平に思つてもゐないらしかつた。信子はしかしそれに気がつくと、必話頭を転換して、すぐに又元の通り妹にも口をきかせようとした。その癖まづ照子を忘れるものは、何時も信子自身であつた。俊吉はすべてに無頓着なのか、不相変気の利いた冗談ばかり投げつけながら、目まぐるしい往来の人通りの中を、大股にゆつくり歩いて行つた。……
 信子と従兄との間がらは、勿論誰の眼に見ても、来るべき彼等の結婚を予想させるのに十分であつた。同窓たちは彼女の未来をてんでに羨んだり妬んだりした。

胸を大きくする飲み物
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