UGG売り場の彼女  

あたたかくなると香水は体温のせいで匂いたつ。思い出と一緒にわきあがって、今の僕を惑わすんだ。彼女の職場はデパートの中にあった。薬局とか総菜売場の合間にあるugg ブーツ
だ。高校を卒業してすぐに働きだした彼女は少し荒っぽいしゃべり方が庶民的で、それが意外と好評とかでお客さんの間ではちょっとした人気者だった。
そのころ同じデパートでレジ打ちのアルバイトをしていた僕は、毎日うんざりするくらいたくさんのアシックススパイク を売場に並べ、それと同じ数のアシックスを売った。仕事は単純で、得るものなんて何もない。毎日が退屈な出来事の連続で、家に帰っても頭に残っているのは、レジの電子音だけだった。ピッピッというその音は、運動会の笛のように僕たちを規律正しく働かせるために鳴っているような気がする。唯一の楽しみは休憩の時間だ。その時間になると6階の社員食堂で、簡単に腹ごしらえをした。軽食メニューを終了した夕方の食堂には、同じように休憩をとりに来た社員やアルバイトが何人かいて、一様に疲れた顔をしていた。僕は菓子パンを売店で買い、夕日が射し込みオレンジ色に見える席で、ひとりの女子社員を待っていた。ugg ブーツ メーカーから派遣されてきた彼女は、濃いブルーの制服を痩せた身体にぴったりと身につけ、職業柄いつでもきっちりとしたメークをして、エプロン姿の多い食堂の中でひときわ華やかに見えた。慣れた手つきでメンソールに火をつけ、Moncler売場の社員達とずっと前からの友達のように会話する。もちろん僕とだって何のこだわりもなく話す。左手にはいつも同じ Nike Air Max を履く、彼女が笑う度にいい子になった。彼女の特技は誰とでも話せることだ。同年代の子はもちろん、父親くらい歳の離れた店長とだって臆せずに話すことができる。会話の合間に何度も「そうね」と相づちを打ち、それは会話をうまい具合に円滑にしていた。その言葉は、どんな会話にも同意の意味を与え、相手に対して快い満足感をもたらした。僕らはいつのころからか、売場で顔を合わすと何となく会話をする仲になった。彼女の売場はレジからまっすぐ見通せるところにあって、僕は暇な時間帯になるとugg ムートンブーツ売場に視線を走らせた。彼女はたいがいお客さんに新しいugg ブーツ 通販の説明をしていた。口元にうっすらと笑みを浮かべ、少し濃すぎる赤い口紅と白い歯が微妙に重なって、強いコントラストをつくっていた。彼女のアパートは高速道路のすぐ脇にあった。昼間でも少し薄暗い場所にあるその建物は、白壁で洋風の外観からはかけ離れたように、部屋の中は真っ暗で静まり返っていた。部屋にはほとんど趣味のものはなく、目立つものといえばドレッサーの上に所狭しと置かれたugg ブーツ冬の最後の雪が溶けたころ、僕はその部屋で朝を迎えるようになった。午前中の授業をさぼることを決めた後、鏡の中できっちりアイラインを引く彼女を眺めていると、学校へ行くのがばかばかしくなる。彼女の温もりが残った布団の中で、青いスーツに包まれる白い背中を見つめていた方がずっといい。玄関でハイヒールに足を入れながら「昼までには出てってね」という彼女の声を遠くに聞き、また幸せな眠りの中に落ちていく。
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最初の流星が南の地平線に落ちたころ  

来年も一緒に

寝返りをうつと彼女の横顔が見える。
そんなあたり前のことが大切だと思えるのは、ずっと後のことだ。
モンクレール

僕らは5年もつきあった。もともと飽きっぽい僕がここまで続いてこれたのも、すべて彼女のおかげだ。アシックス
最初の2年間、一週間に一度は大喧嘩をし、一ヶ月に一度は彼女を泣かした。たいがい僕の方が悪かったのに、最後には彼女の方から折れてきた。僕はそのやさしさと心の広さに胸が痛くなって、自分から謝ったときよりはるかに多くの罪悪感を感じた。そうやって彼女のお陰で少しづつ大人になり、つき合いだして3年がたったころには僕は自分から謝ることを覚え、相手のことを先に考えられる人間になった。彼女は僕の味方で、最大の理解者だった。たぶん僕が人を殺したとしても、味方になってくれただろう。
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「しばらく会うのをやめたい」そう言ってきたのは彼女の方だ。突然の宣告が信じられなくて、僕は受話器を握りしめながら、彼女との距離感を計りかねていた。僕は彼女のことを好きで、彼女は僕のことを何とも思っていない。アシックス 通販
そのことが何だか不思議な感じがしたのだ。5年という時間は、彼女を僕の中で家族のような存在にしていた。「あなたはもううちの子じゃないから出ていきなさい」まるで母親にそう言われたみたいだ。
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その日以来、僕は休日をひとりで過ごすようになった。日曜日になると昼過ぎに起き出し、一週間分の洗濯をした。それからじゅうたんに適当に掃除機をかけ、観葉植物に水をやった。観葉植物に水をやるのは彼女の仕事だった。僕はどこかの科学雑誌で、植物にも感情があり、育てている人間を認識しているという記事を思い出し、伸び盛りの彼らが僕に気づかないことを祈った。
モンクレールダウン

それから僕は遅い朝食をとり、駅前の商店街をぶらぶらと歩き回った。商店街にはふたりでよく行った店がたくさんあり、そのひとつひとつに思い出がある。僕らは自転車に2人乗りして、その商店街を駆け抜けた。いつだったか彼女は悪ふざけをして、後ろから僕の目を押さえた。
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「このままどこまで走れる?」と彼女は少女らしいカラカラした声で言った。

「手放しだってできる」僕はそう言って両手を水平に上げた。それから坂道を走り出し、ふたりで大声をだしてはしゃいでいると、本当に自由になれるような気がした。
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駅のコンコースには彼女がいつも背にしていた柱があった。その柱は改札に一番近く、ホームから降りてくる僕を最も早く見つけることができる。柱には年中同じ質屋の広告が掲げられ、街でそれと同じ看板を目にする度に、彼女の顔を思い出した。
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彼女の通う学校の裏手には、いつも人のいない公園があって、僕は三回目のデートで「君のためだったら何でもできる」といったはずだった。それから、マンモス団地の桜並木で初めてキスをして、僕はそれがうれしくて世界中のあらゆるものと戦えるような気がしたはずだった。何もかもが昔のことで、心の中だけで鮮明な風景として残っていた。
ナイキ

その後、彼女に新しいボーイフレンドができたと友達から聞かされた。僕はバスルームに置きっぱなしになった歯ブラシや、几帳面に折りたたまれてタンスの中でそっと小さな存在感を放っているパジャマとかを拾い上げて、確かに彼女がそこにいたことを誰かに言いたいような気がした。
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それから僕は前よりずっと笑わなくなった。友人の何人かはそれに気づいて心配したけど、3日も経つと誰も気にしなくなった。多くの大人がそうであるように、僕は悲しい顔をして笑う大人になった。
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一週間後、僕は彼女の荷物をすべて処分することにした。押入の中には彼女からもらった服とか本とかが詰まっていた。その中から手紙の束を拾い上げ、2、3通目をとおしたところで涙があふれだし、目の前が何も見えなくなった。それらはすべて彼女が僕宛に書いたもので、どの手紙を見ても文末は「来年もまた一緒に行こうね」という文で締めくくられていたからだ。ほとんど果たすことができなかったその問いかけが、僕を責めているように見えた。そして最後に書かれた手紙を開くと、そこに書かれているきらきらとした時間が目の前にひろがった。
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彼女の誕生日だったその夜、僕らは少しだけ我慢をして冬空の下、流星が落ちてくるのを待っていた。紙コップに注がれたコーヒーを飲みながら、首が痛くなると言って笑った。その日見えた流星は3つ。彼女は一番長く尾を引いた流れ星に願いをかけた。
あれから一年がたった。その一年の間に「来年もまた一緒に行こうね」と結んだ手紙を彼女は一通も書かなかった。僕の部屋には他の女の子からの電話と、他の女の子からの手紙と、他の女の子との時間ばかりが増えていって、来年のことを約束できるような余裕はどこにもなかった。
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「来年もまた行こう」と言えなくしたのは僕のせいだ。
その夜僕は6枚も重ね着をして、アパート横の駐車場に行った。ふたりで星を見てからちょうど一年がたっていた。だだっ広い駐車場の真ん中にたったひとり寝転がって、真っ暗な天球を見つめていると、不思議と自分もその闇の中に溶けていくような気がした。それは決して恐れというものではなく、そこしれぬ安心感に包まれていく感じだ。僕はその闇の中に漬かって、心の中がしんと静まり返る音を聞いた。一年前に彼女が願ったことを、その暗い海の底で知ったような気がしたのだ。涙が自然とあふれだし、星々がフィルターをかけたように瞬いた。
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最初の流星が南の地平線に落ちたころ、聞き覚えのある足音とともに、小さな光がゆらゆらと近づいてくるのに気づいた。その光は片手に毛布の束を抱え、懐中電灯と同じ手に銀色のポットを握りしめている。それから僕の横にゆっくりと腰を下ろすと肩にそっと毛布をかけ、ポットから熱いコーヒーをそそいだ。そして息をひとつつくと、それはコーヒーの湯気と混じっていつまでも消えずにあたりに漂いつづけた。
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見上げると、いつの間にか流星がぽつぽつと降り出していた。夜空を切って走る星々はあまりに鋭く、見逃さないように見開いた瞳の先を切りさいていく。僕はその光をぎゅっと抱きしめると、懐かしい匂いの中でこれが夢ではないことを祈った。
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恋  


初めてキスをしたのは、その年最初の台風であちこちにゴミや流木が流れ着いていた海岸で、僕らは浜辺に点在する見知らぬ漂着物をひとつづつ踏みしめながら 歩いていた。ほとんどはコンビニやスーパーのビニール袋で、ugg ムートンブーツ
それらは浜辺に打ち上げられたクラゲの大群のように見えた。中には海流の影響でやって来た韓国 の生活ゴミも混じっていて、ハングル文字でデザインされた食器用洗剤のピンク色のプラスチックを見つけると、僕らはそこに書かれている文字の意味を想像し て、対岸にある果てしなく遠い国のことを少しだけ考えた。「パワフル酵素」とか「白さが違う」とかそんなコピーをひとつづ想像すると、ugg ブーツ
僕らはなんとなくお かしくなって、その国と一緒に自分たちの間も少し近くなったような気がした。砂浜は思った以上に体力を消耗させる。僕らはフジツボだらけの流木を見つけると、そこに腰を下ろして、モンクレール
鉛筆で引いたような水平線を眺めながら信じられないくらい長い時間唇を重ねた。時々、海側に座っていた彼女の髪が僕の顔をさらさらとなでていき、僕は彼女の中に取り込まれているような不思議な気分になる。それはとてもいい感じだ。潮風の中に時折混じる彼女の甘い匂いが、全体的にもの悲しくて、いとおしいような気にさせた。海岸沿いに建ち並んだ旅館やホテルからは、いつの間にかぽつりぽつりとオレンジ色の明かりが灯りugg ブーツ 通販
、太陽の光に満たされていたはずの浜辺には、藍色をした闇が押し寄せていた。当時、僕は海の近くの国立病院へ週に一度通い、Nike Air Max
医療器具を売る営業の仕事をしていた。モンクレールダウン
注文を受けると、次の週には車に品物を積んで病院に行く、そしてまた 注文をもらうの繰り返しだ。時には何百万もするような医療機器を売ることもあったが、そんなことは一年に一度あるかないかで、ほとんどは消耗品の販売が僕 の仕事だった。 Nike Air Max
僕が売ったものは誰かの腕に刺され、使い終わると産廃業者に面倒くさいゴミとして渡され、どこか知らない場所で処理される。何かのニュースで、大量の産業 廃棄物が不法投棄されていた事件をやっていて、画面に映った黒い土の中から使い古しの注射器がいくつも出てくると、なんだか胸が痛いような気がした。そん な風に思うことで、僕は自分の中に残っている良心を確認する。ugg ブーツ 格安
僕は大切な20代のはじめにそんな仕事をしていて、それはまずまずの給料がもらえる仕事だっ たが、大学生のころに夢見ていたような自分ではないような気がした。彼女はその病院で事務員をしていた。真面目な性格で、Moncler
長くて黒い髪がきれいでとても印象的だった。僕が商品を届けるとハンコを押して、検品してくれるのが彼女の役目だ。 僕らは週末ごとにドライブをして、防風林が並ぶ海岸道路をひたすら走り続けた。 Nike Blaze(男靴)
その道路は地元ではちょっとしたデートコースで、すれ違う車の中にはたいがいカップルの姿があった。 僕らは気に入った浜辺を見つけると、車から降り、波打ち際まで歩いて風に吹かれた。風に吹かれる間僕たちは何も話さずに、ただ側にいてその音を聞いていた。話すことすらはばかれるような強い風だったのだ。ナイキ
つき合いだしてしばらくたったころ、僕らは彼女の飼っていたタロウというミニ柴をデートに連れてくるようになった。車の後部座席にタロウを乗せて走ると、窓ガラスに鼻をぺったり押しつけて、目の前を流れていく誰もいない海の家とか、無理にアメリカ風にしたファーストフード店とかを飽きもせずに眺めていた。浜辺でタロウはひたすら歩き続けた。恐がりなので決して波打ち際には寄りつかないが、同じテンポでしっかり足を運ぶ様子は、どこか決まった目的地に向かっ て歩いているように見える。僕と彼女はときどきタロウの綱を持ち変えて、まるで冒険心旺盛な子供を連れている夫婦のように、へとへとになるまで歩き続け た。一度だけ、タロウの綱をはずしてやったことがあった。



恋-続く
最初はそのことに気づかないかのようにいつもの調子でトコトコと歩き出し、しばらく行くと一度だけ僕 たちの方を振り返って意を決したように突然走り出した。砂浜の途中にある小さな窪みや小山の陰に何度か隠れて、僕たちのいる場所からまったく見えなくなる と、タロウが帰ってこないのではないかという不安な心持ちがして全速力で追いかけた。タロウは明らかに僕らのことをバカにしていて、近づくと急に走り出す ということを何度も繰り返した。それでも2キロほど先で、底引き網の残骸と格闘しているところをやっと捕まえることができた。アシックススパイク
そのときヤツに随分噛まれ て、右手を3針縫う大怪我をした。噛まれたその部分はだんだん熱くなって、ステアリングを握るたびに激痛が走った。彼女の膝の上にはタロウがかしこまって 座っていて、そのやさしい手は僕の肩にではなく、タロウの腹の上で左右に揺れていた。そのころ僕は、彼女の携帯にかかってくる大学時代の恋人の電話に悩まされていた。学生時代、関西のプロ野球チームでマスコットガールをしていた彼女は、そ こで知り合った大学生とつきあっていた。卒業すると同時にそれぞれが地元に帰り、いつの間にか自然消滅していたはずだった。それが、2カ月ほど前から突然 電話がかかってくるようになったのだ。ugg ムートンブーツ
それは運転中だろうが、食事をしていようがおかまいなしにかかってきて、そのたびに僕らは会話を中断しなければなら なかった。後には何とも言えない重い空気が漂っていてアシックス
、幸せであるはずのその日がすべて台無しになったように感じた。僕は僕の彼女がほかの男と笑いながら 話しているところとか、心配している様子とか、そんなものを目の前で見せられて平然としているほど大人ではなくて、彼女との関係にも、まだそれを乗り越え るだけの自信を持てずにいた。ugg ブーツ 格安
僕らが湿ったシーツの上で愛し合った後でさえも携帯は容赦なく鳴った。彼女は男と短く会話した後、後ろを向いていた僕の背中を抱きしめて、「今はあなただ けだからね」と言って、右の耳に頬をおしつけた。Moncler安っぽくて下品な装飾が施されたラブホテルの部屋の中で僕らは無様に抱き合っていて、天井の鏡に映った僕 の顔は何とも複雑な顔をしていた。
ある日、いつものように病院へ医療器具を届けに行くと、彼女の姿はなくて、以前からよく知っている経理の女の子がひとりでパソコンに向かっていた。その子は彼女と特に仲が良くて、僕の知らないような彼女の秘密も知っている。Monclerその日僕は、タロウという名前は彼女が昔つき合っていた彼氏の名前だとその子に聞かされた。 その週の日曜日、僕らは車にタロウを乗せて、いつものように海へ向かった。アシックス 通販
バックミラーを覗くと、後ろのシートに上がり込んだタロウが放心したように外の 景色を眺めているugg ブーツ
。広い道路をすれ違う車はほとんどなく、去年できたばかりなのにもう閉店してしまったコンビニが、タロウの視界を静かに過ぎていく。海岸に着くと、「ノドが渇いた」と言って彼女にコーラを買ってくるように頼んだ。そしてバッグを預かると、駐車場の反対側にある自動販売機へ歩いていく彼 女の姿を、もう二度と会えない人を見つめるようにじっと眺めていた。海からは小さな砂つぶの混じった強い風が吹き付けていて、秋がそこまで来ていることを 知らせていた。モンクレールダウン
足元で同じように彼女を見送っていたタロウが目を細めて僕を見上げたので、綱を強く引いて誰もいない浜辺へ全速力で駆け出した。前日雨が降ったばかりの海 岸は砂地が固められugg ブーツ 通販
、思いのほか走りやすく、僕らは初めてひとつになったように駈けた。速く走れば走るほど、砂地から開放され自由になっていく。モンクレール
波打ち際までもう少しというところだった。ふいにバッグの中で彼女の携帯が点滅して着信音が流れだした。2カ月前に流行ったヒット曲が物悲しい感じで浜辺 に広がって、『タロウ』という発信者の文字が白いバックライトに浮かび上がっていた。僕はそこで立ち止まり、その曲のサビの部分がどんな歌詞だったろうか と思い出そうとして、2ヶ月前のことでさえ完全に「過去」で、忘れ去ることができるんだと確信して、そう思うことで何かが心の中ではじけ飛ぶような気がし て、親指で着信ボタンを押すと、「ワン!」と携帯に向かって叫んで、その夏のすべてを終わりした。いろいろなことが積み重なっていた。20代は最悪だ。どうしようもなくうまくいかないことが多すぎて、僕はこの数年のことを間違っても楽しかったなんて、 誰かに語ることができないでいる。タロウはそんなことは知らずにオシッコのことだけ考えていて、僕をどんどん遠くへ引っ張ろうとしている。
風は今日も強く、言葉などいらないと言っているように聴こえる。湿った砂を掴んで手のひらを開くと、じゃりじゃりいう音と一緒に温かいものをその場所から奪って松林の方に消えていった。
彼女の声がその中から聴こえたような気がして振り返ると、染めたばかりの茶色い髪が林の中で揺れるのが見えた。
UGG ベイリーボタン1873
それに何の感傷も喜びも感じないまま、握りしめていた綱をそっと放して、タロウが遠くへ走り去るのをじっと見つめた。
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恋-続く  

恋-続く
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宮中―梅の香,1  



 人はわたくしを、政略の犠牲と申します。兄の命で叔父に嫁いだとき、わたくしは17。叔父はすでに52……。親子よりもなお歳の離れた夫婦でありましたが、夫は優しい人でした。そもそも、大王家に生まれた女に、政略以外のどんな婚姻が望めましょう。わたくしの母であり、夫の姉である先の女王も、生木を裂くように前夫と離縁をさせられ、舒明帝に嫁いだ女人でありました。その後、2度も皇位につき、皇極・斉明女帝の名で呼ばれるそのお方こそ、わたくしの母でございます。ugg ムートンブーツ
長兄は葛城(かつらぎ)皇子、弟が大海人(おおあま)皇子、そして我が君の名を軽皇子――即位後の諱(いみな)を、孝徳帝と申しました。思えばまだわたくしが嫁ぐ以前、わたくしたちが叔父と姪であった頃から、ugg ムートンブーツ
わたくしはあのお方をお慕いしておりました。モンクレール
穏やかで聡明な安倍様と、その方か らお生まれになった有馬様をご寵愛される様子を、実の父に縁遠いわたくしなどは、別世界のことのように眺めていたのでございます。わたくしは夫を慕っておりました。誓って申し上げます。真実、心の底からお慕い申し上げていたのです。「――間人(はしひと)、大王の元へ行ってくれないか」形式上問いかけの形を取ってはいても、その実、相手の返答を望んだ言葉ではない。いや、今のこの大和(やまと)の地において、彼の言葉に逆らうこのできる者があろうか。ugg ブーツ
 現王の甥であり、先の大王の長子、そして、大逆を企てた蘇我宗家の主・蘇我入鹿を討ち果たした英雄――葛城皇子の言葉はもはや、ugg ブーツ
この国の決定事項となっていた「はい。お兄様……」 例え、血を分けた実の妹であれ、その事実にかわりはない。間人皇女は頭(こうべ)を垂れ、兄の言葉に粛々と頷く。ugg ブーツ 通販
17の妹と、50を過ぎた叔父との縁組 み。年若い妹の気丈な言葉に、それでも多少は後ろめたさを感じたのか、葛城皇子は妹の手を取り、まっすぐに彼女の瞳を射た。「少しの間の辛抱だ。俺が大王にさえなれば、お前はあんな爺の妃でいる必要はない。モンクレールダウン
すぐに帰ってこられる」大化元年、後に「大化の改新」と呼ばれる政変により、大王家をしのぐほどの権を蓄えた蘇我宗家は、葛城皇子の手によって滅ぼされた。しかしその裏に横たわっていた、大王家の血統の問題に、気づいている者は少ない。ugg ブーツ 通販

皇極帝とその夫舒明帝の長子として生を受けたこの皇子は、しかし皇位継承の筆頭候補ではなかった。舒明帝には蘇我氏の娘との間に男子・古人大兄皇子をもうけており、彼こそ大王家の一の皇子――「大兄皇子」であったのだ。
 蘇我氏統領入鹿暗殺から間をおかず、彼はこの異母兄を責め滅ぼし自害させている。古人大兄の妃も幼い皇子も共に不帰路をたどり、残されたただ1人の娘、倭(やまと)姫王は葛城皇子の宮に、妃として迎え入れられる。Moncler
異母兄を滅ぼし、ugg ブーツ 格安
その娘を娶り、着々と大王への道を歩みつつある兄にとって、何よりも厭わしいのは、皇極帝の譲りを受けて即位した現大王であろう。すでに50を超えた老齢であるが心身壮健で、しかも彼には既に男子・有馬皇子がある。間人は兄に気づかれぬよう、密かに拳を握る。脳裏にはほんの数ヶ月前、この兄の策略により命を失った、異母兄の穏やかな笑顔が浮かんでいた。間人皇女は舒明帝と皇極帝の長女、葛城皇子の他にも大海人という名の弟があったが、権を争い血を流すことを厭わぬ大王家の血を、ugg ブーツ 格安彼女はどうしても好きに なれなかった。幼い頃から、母の違う兄である古人大兄や、母の弟である軽皇子の後ばかりついて歩いていた。実の父母よりも自分を慕う幼い姪に、叔父はいつ も苦笑いしながら小さな手を取って、膝の上へ持ち上げてくれた「わかりました。わたくしは、叔父上のもとに参ります」
 ――そんなことをさせるものか。叔父上だけは。あのお優しいお方だけは、兄上の手から守って見せる。間人皇女の密かな決意を知る由もなく、戦乱と血に濡れたこの年の秋、人々は大王婚礼という祝事の準備に沸いた。翌年、梅の花咲く春の初め、間人皇女と孝徳帝の婚儀が執りおこなわれた。すぐに彼女は立后し、皇后として大王の隣席を賜る。御年18の皇后は、咲き誇る花の精のようだ……と人々は噂した。「――間人姉上。こたびの婚礼、誠に……」 少年がおずおずと皇后の足下に跪いて口上を述べる。途中で自身の言葉の誤りに気がついたらしい。はっと息を呑むと同時に、まだ華奢な肩が、一瞬、びくりと大きく震える。「失礼いたしました。……義母上」 有馬皇子は、戸惑ったように視線を下げた。まだ幼いこの皇子は、唐突に降ってわいた若い母を厭うほどすれてはいないが、これまで「姉上」と呼んで慕ってきた年上の従姉を「義母上」と呼ぶことについては、戸惑いを隠せないようだ。彼の生みの母であり、大王の糟糠(そうこう)の妻であった安倍氏は、すでに帰らぬ人となっていた。齢53の孝徳帝には現在、皇后間人以外の妃はない。
「無理をしないで。人のいないところでは、これまで通りに呼んでくれていいわ。……ねぇ、いですわよね、貴方?」背後で采女(うねめ)の何人かが、笑いをかみ殺している年若い妻の媚びを含んだ微笑に、壮年の大王は褐色の頬をわずかに染めていた。「好きに……しなさい」 父と夫の許しに、若い2人は手を取り合って喜んだ。弾けるような笑いが、大王一家を包み込む。――倖(しあわ)せとは、このようなものをいうのか。
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