数学の宿題のプリントに斉藤圭吾と名前を書きながら俺はふと思った

2011/9/14 
初めて覚えた数字はいくつだっただろう。数学の宿題のプリントに斉藤圭吾と名前を書きながら俺はふと思った。そんな昔のことは親だって覚えてないに違いない。でもふと疑問になったのだ。今日やれてすごいと思ったことは明日には当たり前になる。初めて覚えた数字もすぐに俺にとって当たり前になったんだろう。初めて持った携帯が当たり前の携帯になって、そのうちファッションのように取り替えるものになる。そんな風な感じだろうか。RU486
「は〜」
 数学のプリントに踊る数字を見ながら俺はため息をついた。数学なんて大嫌いだが、センター試験には数学が出る。国公立狙いの俺は、数学も暗記でなんとかしのいでいる。
 嫌いででも楽しんでやれば楽しくなるものだとかなんとか担任が言っていたが、嫌いなものは嫌いなのだから仕方がないと思う。嫌いでもなんとなく解けた時はそれでも嬉しいものだけれど。数字の羅列を見るだけで拒否反応が出る自分が情けない。でも解かないとと思って解く。数学が本当に理解できて分ると楽しかったのは、小学校くらいまでじゃないかと思う。あとはもう、数式の暗記でしかなかった。やりかたは覚えているから分るけれどなぜそうなるかは分らない。機械的に解いていくだけだ。
 あれほど当たり前になっていくのが当たり前だったのが、こと数学では起こらなかった。俺は数学を解くことができない。壁にぶちあたっている。
「大体数学なんて実生活でなんの役に立つんだ」
 俺はそんなことを言いながらため息をついて、二問残してプリントをたたんだ。俺の通う学校はいわゆる進学校だ。その国立コースに入るのには一年のテストの点数と細かな模擬試験の点数が良くなければならない。
 こんなことで大丈夫だろうか。
 そんな不安をかかえたまま他の宿題も終わらせて、明日にそなえて寝た。

 朝は結構早い。学校へは自転車で40分かかる。しかも補習を受けているので急ぐ。
 学校で朝の補習が終わって教室に向かう。
 隣の席の高柳みすずは、数学が大好きだ。
「数字の羅列を見ているだけで恍惚となるわ」
 が口癖だ。変人だと思う。二年から文系理系に分かれるが、彼女は理系でばりばり数学をやりたいらしい。
 割算の九九やらそろばんやら暗算やら円周率の暗記やら彼女には数字関係の特殊技能が多い。当然数学の宿題は満点だし模擬試験でも数学でいつもトップを飾っている。このあいだは全国の模擬試験で全国順位が一番だったとかで図書カードを貰っていた。
 高柳は、たぶん数学を当たり前にこなしてどんどん先にいけるんだと思う。
 眼鏡をかけて知的美人なんだけどなあ。数字をこよなく愛してて、男なんて見向きもしないような人だ。しかしでも狙ってる男子生徒は結構噂に聞く。
 マイペースを崩さず、しかも勉強ができて人気もあるなんでずるいなと思う。別に俺は彼女のことをどうこうとは思っていない。特に好きでもないし嫌いでもない。単なるクラスメートだ。しかしあんな変人のどこがいいんだろう。とも思うのは、たぶん俺の自尊心がじくじくと痛めつけられているからだろう。数学ができないのに本当は生物の関係の仕事につきたい俺の。
 大学は第二志望の文学部系に行くことに決めた。好きな生物の道をあきらめたのは、父親にどこまで行っても数学がついてまわるぞと言われたせいもある。俺は父親が嫌いだが、親は親だと思う。したがわなければ何をされるか分らない。それは、俺がずっと子供の時から身に染みていることだった。
 父親は何か気にいらなければ俺をひっぱたく。俺が反抗的ならひっぱたく。何もしてないのにひっぱたく。それが当たりまえの毎日だった。母親は何も言わずに耐えていた。
 俺は家の仕事を手伝っているが、手伝いながら行ける県内の学校しか行ってはいけないと言われている。本当は県外の学校へ行きたいのだが、無理そうだ。ネガティブな思考で、後ろ向きな選択ばかりしているような気がする。好きなことを本当にやりたいのに、自分が何を好きなのか分らない。いつもどうどう巡りばかりしているような気がする。それでも勉強さえやっていれば時間は過ぎていく。
 誰か俺をここから出してくれないか。いつも俺は誰かに依存している。いつもそうだ。高校に入って仲が良くなった友人となんとなく喋る。今日の宿題やってないとか、やってきたとか、3組の山田はうちのクラスの佐久間とデキてるとかそんなどうでもいいことを喋る。そして一日が終わり、部活をやってない俺はそのまま帰る。
 数学は俺にとってただの数字の羅列に過ぎない。でもそこに意味があると思えばあるのだ。俺にとってどうでも良い数字の羅列で俺の未来も決まってしまう。たかが数字されど数字。俺は憂鬱になる。
 俺よりもっと成績が悪いのに、好きな農学部に行きたいと頑張る知り合いがいる。農学部でも数学はついて回るだろう。俺は頑張れない。
 楽なほうへと流されてばかりだ。国語や文系の科目が得意だが、得意とやりたいは違うことだ。
 本当にやりたいことを求めながら、できないでいる俺は、たぶん卑怯ものだ。逃げてばかりで立ち向かおうとしていない。
 数字は当たり前に覚えて使えるようになったのに、数学はそうはならなかった。大人になっていくということはどういうことなんだろうか。
 いつも悩む。そして答えがないことにイラつく。怒りが、澱のようにたまっている。いつかこういう怒りとも上手く付き合えるようになるんだろうか。
 本当に大人になることは今より良くなることだろうか。親を見ていると、どうにもその答えが出せなくなる。大人たちはみな忙しくて子どもと向き合わない。俺の父親も向き合ってはくれない。叩くのに飽きると、ただ、脅すように時々何かを言うだけだ。しつけと称していつも俺をストレス発散の道具にしている。それでも父親としてやっているのだと思い込んでいる。おかげで人間不信でもあるが、おくびにも出さないで生活している。
 何かが分らないのだが何が分らないのか分らない。大学に入れば分るのか、就職すれば分るのか。いや何をしても分らないような気がする。数字の羅列から思考がどこまでもネガティブになる。嫌いなことを前にして、俺は現実逃避をしている。明日の三限も大嫌いな数学だ。宿題を見るのも厭だが、今日も俺は宿題をして眠る。それしかないからだ。好きな音楽もない。好きな女の子もいない。人畜無害な男子生徒として明日も学校へ行く。それが俺だ。威哥王
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一向に当たる気配すら感じさせない釣果以上に絶望的な状況に頭を抱える

2011/9/7 

「兄ちゃん、初心者だな」
 こくりと力なく頷くザックスを眺めながら、マスターは言葉を続ける。
「俺もこの仕事について30年近くになるが、ここまででたらめなパラメータをみるのは初めてだ」
 太い指で一点を指し示して、眉を潜める。
「まず、手始めに理力値。装備からみるに兄ちゃんは戦士志望だろうが、その値は一流の魔導士ですら滅多にみることのないMAX値だ。にもかかわらず魔法攻撃力は0。術師の才能は全くないって事だ」
 何て無駄な値だ、と呟きながらさらに別の点を示す。
「総運値0。こいつは差分で引き出される値だから、初期時点でマイナス値を示す奴もざらにいる。成長すればそれなりに解消されるものだが、お前はこれがすでに限界値に達しきっている」
 まったく出鱈目だ、と言いながらマスターはさらに続けた。
「さらに詳細不明な呪いがかけられるようだな。冒険者協会ですら把握できない解呪不能な呪いなんて論外だ。そして最大の問題はこいつだ」
 声を潜めたマスターは、ザックスの目を見据えて言う。
「お前、一週間前に起きたあの一件の生き残りらしいな」
 その瞬間、周囲の空気が凍った。
 わざわざマスターが声を潜めたにも拘わらず、聞き耳をたてていた周囲の者達はその一言に大きく反応した。鮮度の高い情報に価値を求める冒険者根性ゆえというところであろう。店内の様子に僅かに呆れた様子を見せながら、カウンターの向こうのマスターは続けた。
「普通ならこんな苦労はしなくていいはずだ。初期パーティの仲間なんて冒険者訓練校の同期のやつらで組んで、しばらくはそれでいけるはずだからな。だが、お前さんはあの一件でその選択肢を奪われ、初心者の段階で仲間集めの苦労をしなければならない。それは同情する」
「…………」
「冒険者って奴が無謀でいられるのは始めのうちだけだ。ダンジョン探索やクエストの数をこなすほど、その実態の困難さに目が覚める。故に誰もが保守的になって、そんな奴らがお前のような爆弾を、好んで仲間に受け入れることなんてありえない。こっちも仕事だからな……店の看板に傷がつくような真似はできねえんだよ。あそこの店で紹介された奴を入れたばかりにパーティが全滅しかけましたなんて噂が経とうものならば目も当てられやしねえ……。
 さらに初心者のお前じゃ、単独探索も出来ねえ。協会も黙ってはいないはずだ。悪い事は言わん。冒険者を廃業して新しい道を探すんだな……」
 そう言い残すとノキル酒で満たしたグラスをザックスの目の前に置き、離れていく。灰汁と酒精の強いノキル酒の杯を交わすのは、冒険者たちの間では縁切りの際の風習である。
 もはやとりつく島もない事を理解したザックスは、グラスを放置したまま立ち上がる。それを機にしんと静まり返った酒場の中が再び活気づく。荷物を背負ってとぼとぼと店から去っていくザックスの動向を気に留める者は、もはや皆無だった。


 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆


 夕刻に近づいているものの夏の空はまだ高い。濃い潮の香りに満ちた波止場から釣り糸を垂れながら、ザックスは沖合に浮かぶ島々の景色をぼんやりと眺めていた。
 別段、現実逃避をしているわけではない。収入のあてがない以上、無駄な出費は極力切り詰めねばならない。いわゆる夕食の調達だった。周囲には彼と同様の境遇と思しき者達が波止場近くの貸し釣具屋で調達した竿と餌を使い、穏やかな波間に浮きを浮かべている。
(ついてない……)
 これも総運値0の恩恵だろうか?
 本日数度目のため息をつきながら、一向に当たりの様子を見せない浮きに悪態をつく気力もなくただ座り込む。そのまま彼はここ暫くの間に自身の身に起きた様々な災難を、しみじみと振り返っていた。

 彼が釣り糸を垂れている海――通称《大円洋》とも呼ばれる《アドべクシュ海》を挟むように、北と南に二つの大陸が広がっている。その一つ、南の《サザール大陸》の沿岸部に存在する複数の自由都市国家群にまたがる巨大な組織の名を冒険者協会という。
 初心者から伝説的英雄まで数多の冒険者を輩出してきたこの組織の門を彼が叩いたのはおよそ2か月前。簡単なマナの扱いと冒険者に必要な生存技術を協会経営の訓練校で学び、卒業審査である『初心者の迷宮』踏破の試練に仲間たちと挑んだのがおよそ一週間前の事。
 成功率百パーセントに近い、簡単な技能試験であるその試練をクリアすれば、『見習い冒険者』の称号を得るとともに新たな冒険者人生がスタートする……はずだった。百人近い同期生がいくつかのパーティに分かれて挑んだその試練において、あの忌まわしき大惨事が起きたのだった。
 六層構造のダンジョンの最下層部にある召喚魔法陣の上に現れたのは、初心者パーティに少しばかりの困難を強いるであろうDランクボスモンスターではなかった。
《十二魔将》――協会にSSランクオーバーと登録された伝説級の魔人の一人の出現に、ダンジョン内は当然の如く阿鼻叫喚の坩堝と化した。魔人の結界に阻まれ、緊急転送アイテムの効力を失った初心者達の末路は無残なもので、無事に生還できたのはザックスを含めて五人だけだった。
 ダンジョンの最上層部で気を失ったまま保護されたザックス達が、協会の施術院で目を覚ましたのはそれから3日後。協会指定案件6―129号と名付けられた事件の事情聴取を受け、雀の涙程度の見舞金を渡され放り出されたのが2日前の事だった。
 目覚めて以来度々襲い掛かる奇妙な目眩に悩まされながら、ザックスは自身が所属するべき酒場を探して街中をたった一人で歩き回る事となった
 新規冒険者の9割以上が死亡、生存者の内、二人が廃業、一人が意識不明のこん睡状態のまま、一人が事情聴取の後行方不明、という惨事の顛末は瞬く間に都市中の酒場に知れ渡り、事件後に異常値を示すステータスのせいでザックスはどの酒場でも敬遠される事となった。冒険者協会認定の酒場に所属しなければ、その後の冒険者としての活動は実質不可能である。『見習い冒険者』ですらないザックスの前途は絶望的だった。
 このような状況に至っては冒険者の道をあきらめる事が妥当な選択であろう。だが、彼自身にかけられた正体不明の呪いが、『廃業』という選択肢を阻んだ。
 諸経費として見舞金の半額をぼったくった協会派遣の役立たずの解呪師が、自身の無能さをごまかしながら残したのは「掛けた奴に解いてもらえ」という無責任極まりない一言だった。もう一度SSランクオーバーの魔人と相対し、どうにかしろという訳である。
「絶望的だ……」
 再びため息と共に呟きが漏れる。一向に当たる気配すら感じさせない釣果以上に絶望的な状況に頭を抱える、そんな時だった。
「まったく、ええ若い者がため息なんぞつきおってからに……。お前さんの放つ陰鬱な気のせいで魚共が逃げてしまうではないか!」
 ザックスの隣で、糸を垂らしていた老人が彼に声をかけた。一帯の顔であるといった風体のその老人は、ザックスの返事を聞く事もなく言葉を続ける。
「さほど、困難ともいえぬ困難を前に逃亡寸前といったところかのう。ここらで釣り糸を垂らして待っとるだけでは、落ちぶれ冒険者どもの仲間入りじゃぞ」
 最近の若いもんはこれだから、といった老人の口ぶりにムッとした口調でザックスは言い返した。
「人の事情も知らんくせに、無責任に首つっこんでんじゃねえよ」
 だがそんな無礼なザックスの言葉にも、老人は臆しない。
「カッカッ……。青いのう。正攻法がだめなら搦め手を考えてみるもんじゃ。真っすぐばかりが人生ではないぞ。どれ、ちょいと見せてみんかい」
 えっ、と思ったのもつかの間、竿を置いた老人の手には、いつの間にかザックスの首飾りが握られていた。
「ちょっ、爺さん、いつの間に……」
 驚くザックスを尻目にニヤリと笑った老人は、クナ石の首飾りにマナを込め、ザックスのステータスを覗き見る。
「なるほどのう。まずはレベルを上げん事には何ともならん、と云う事か……」
「あのなあ、そんな事は分かってんだ。同期のやつらは根こそぎやられて、半年後に新しい見習い冒険者のパーティが現れるまで待ってる時間はねえ。そして今のオレとパーティを組もうとする奴を紹介してくれる酒場なんて、どこにもねえんだよ」
 言葉にすると同時にじわりと鈍いものがこみ上げる。なんだってオレがこんな目に逢わねばならんのだ、人生のバカヤロウ、と海に向かって吠えるのはもはや時間の問題だろう。
「やれやれ、近頃の冒険者も冒険者なら、酒場の主人たちも問題といったところか。自分達の役割をとんと忘れて、保身に走りおってからに……」
 ぶつぶつと呟いていた老人は、やおら首飾りをザックスに押し付け、竿を握り直しながら言葉を続けた。
「経験値を稼ぐだけならいくらでも方法はあるだろうが……」
「オレに『経験値売買』をやれっていうのかよ! 大体そんな金なんかあるわけねえだろう!」
 経験値売買――冒険者訓練校の講義において、これを多用するものは冒険者達の間ではあまり好まれていないという前置きとともに教わる手段である。
 冒険者達をあらゆる面から評価管理するステータスシステムは、人間のもつ曖昧な能力を数値に表わすというものである。マナLVを基準に強化されていく冒険者達の能力値を上げる為に必要な経験値は、戦闘やクエストの達成、ダンジョンの踏破など様々な手段によって加算され、冒険者の体内にマナとして蓄積されていく。経験値が上がればマナLVも増加するというわけである。
 当然、これを悪用する方法もあり、マナのやり取りで変換される経験値のみをしかるべき方法で買い取り、自身のステータス値を上げ、名を売ろうとするものも現れる。
 実戦での経験が皆無なくせにやたらとLVだけが高い彼らは、冒険者達の間では軽んじられるものの、裏ではこの行為はそこかしこで行われている。そして、それを実行するにもカネ次第というわけである。たかだか2000シルバの所持金しかない今のザックスに買い取れる経験値など雀の涙程度であり、事態の好転に一役買うことなど、到底不可能である。
 不貞腐れたザックスの様子を眺めながら、からからと笑って老人は続けた。
「もうちっとばかり、歩き回って頭を使ってみるんじゃな。お主のような者でも必要とする奴らは、必ず見つかるじゃろうてよ」
 そう告げると、老人は竿を引き上げ、釣った魚を放り込んだバケツを片手に立ちあがった。餞別じゃ、と釣った魚の半分をザックスのバケツに放り込みながらとある一策をザックスに囁くと、相変わらずからからとご機嫌な様子で立ち去っていく。
 岸壁にぽつりと残されたザックスは、混乱した頭で呆然とその背を見送るのだった。
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teacup.ブログ START!

2011/9/7 
ブログが完成しました

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