2017/4/21

吉川みほ『行き先の思い出せないバス』  歌集

今回ご紹介する『行き先の思い出せないバス』(フラスコ書房)は「うたの日」などでご一緒した吉川みほさんの歌集である。その出版形態が「電子書籍」+「オンデマンド出版」という、いま始まりつつある、私にはよく分らないが興味ある形なのだ。電子書籍はかなり広まったとはいえ中々出版界に定着しないようだし、「本の手ざわり」を求める人には「オンデマンド」で安価なものを手に出来るのはいいことなのだろう。「流通経済」の面となると中々ややしこしい事だろうけれど。

吉川さんの来歴はよく存じ上げないのだが、兵庫在住のネット古書店をやっていられる方。短歌はまだ二年ほどの「短歌クラスタ」で「うたの日」400日連続出詠を記念してこの本を作られたと言う。(結社10年で第一歌集が普通)私はびっくりして大丈夫かなあと恐る恐る読みはじめたが、危惧は裏切られ、一定以上のレベルを保つ歌で彩られていた。まず9首を引く

『行き先の思い出せないバス』

行き先の思い出せないバスに乗りほらまたひとり迷子になった

カーテンは脹らむ朝の風を受け動き始める今日という船

海と空のすべての青を閉じ込めてボトルシップが永遠をいく

蜂蜜の流れる速度で進む船 夕陽とともに海に溶けゆく

白昼の点景が陽に揺らめいて本当にバスは来るのだろうか

ああそうだクジラだったと思い出す バスは大きくカーブしていく

遊星の一つに降り立つ心地する私と駅員だけのホームで

噴水が花に埋もれて目を閉じるどこにも行けない舟の姿で

天の水ただ受け止めて一年の船底に満ちる紫陽花のはな

題名にもなった一首目は記念すべき「ドンマイ」の歌だそうで、私も歌は置く場所によって表情を変えると思っているのでこれは「成功」だろう。これによって「乗り物」「流れるもの」「運んでいく物」というテーマが構成された。私もこの9首を「船」を中心に選んでみた。現代の揺蕩いを詠うのは、今主流だけど言葉の使い方の優しい人と思った。
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