2010/5/30

<その25>こっそり  ノンフィクション

<2009年11月30日>

今日は小沢さんが会社に来る予定。
在職の最後の日だから、他にも有給休暇に入っている人たちが
久しぶりに会社にやってくる。

今日で上司と部下という関係が、ほんとに最後になるんだ、と
思うととても悲しくて不安。
今は、秘密の関係で繋がっていられることだけで、気持ちが救われてる。

小沢さんとのデートで忘れてうやむやにしていたけど、
41歳バツイチの市議会議員の見合い相手を断らなきゃならなかったので、
とりあえずネットで名前を検索してみた。

議員さんだけに、顔写真がバーンと載っていて、
ああいう写真は映りが悪いに決まっているが、
生理的に受け付けない人で、ちょっとほっとした。
伯父さんに「ごめん、顔が無理。」と言えば良い。

小沢さんが前と同じように会社にやってきて、のんきに「おはよー」と言う。
なんだか顔を会わすのが照れくさい。
今日は退職する人達がみんなやってくるので、一緒にお昼ご飯を食べに行こう、
と約束をしていた。
結構大人数で会社から歩いて10分くらいのところの和食屋さんに行った。
私は小沢さんとは離れて、女子チームの中に座った。
後輩の女の子は、もう次の仕事を決めていて、
すぐに千葉で研修に入るそうだ。
研修から戻ってきて落ち着いたら、またご飯に行こうね、と約束をする。
男性陣は男性陣で盛上がっている模様。

食事を終えて、小雨の中、会社へ戻りながら歩いている時、
私は、小沢さんに用事があるフリをして声をかけた。
会社のみんなが前に行ってしまい、後ろの方で
私と小沢さんは談笑しながら歩いていた。
と、小沢さんが突然私の手を握った。
ええーーー!会社のみんな至近距離ですよーーー!??
と心の中で叫んでみるも、小沢さんは、そんなこと気にしてない様子。

手を繋いだまましばらく歩いて、会社が近づいて来たときに、
小沢さんがきゅっきゅ、と手を軽く握って離すよ、と合図。
会社のドアをくぐる事なく、退職するみなさんとはここでお別れ、ということになった。
「また、また会いましょうね!」
そう言って、手を振った。
小沢さんは駐車場に車を取りに行く。

会社の自分の席に戻って、私は小沢さんにメールを送った。
『びっくりしましたって!みんなの前で手繋ぐんだもん!!』
『びっくりした? だって今日は他にチャンスがなかったから(笑)
みんな、前を歩いてたからバレなかったはず。』
小沢さんがのんきな返事を返してきた。
ちょっとの時間でも、小沢さんが私のことを気にしてくれるのは嬉しい。
もう完全に貴方のものだからね、私は(笑)
みんなにこっそり手を繋いでくれた。
それだけで、私は元気になれる。
1
タグ: 小説 実話

2010/5/5

<その24>一般論  ノンフィクション

<2009年11月29日>

小沢さんと一晩過ごした翌日は、なんと私は、地元の小学校からの友達と
飲み会の予定で、
昼前に家に戻った私は、駅まで迎えに来てくれた母に、
しゃぁしゃぁと嘘をついた。
「見合いの件、みんなキレてて、友達の方が飲み過ぎよったわ」
と、友達の家で飲んでくることにしていたので、そう言う。
母は、「そうね」としか言わない。
別に反対もしない、賛成もしない、という当たり障りのないスタンスらしい。

家に帰ってからお風呂に入り、着替えて身支度をしたら、
もう友達との待ち合わせの時間。
小学校からの女友達たちは、なぜかみんな異常に飲んべえで、
昼すぎから夜までずーーーっ飲み続けるのが通例なのだ。
買い出しのため14時に近くのスーパーで待ち合わせをしている。
お酒類やつまみ、お菓子を買い込んで、近所の友達の家に流れ込む、という流れ。

身支度している間、小沢さんとメールのやりとり。
『完璧にごまかしきれましたよ』と報告すると、
『すげえじゃん。
俺はアリバイ工作のために、部屋の掃除めっちゃしてる』と、なんともかわいらしい返事が。

待ち合わせ時間の近くになったので、待ち合わせ場所に向かった。
すぐに友達二人と合流して、買い出しスタート。
仕事のため遅れてくる友達がいて、今日は全部で女子4人だ。

小学校からの仲なので、気心がしれすぎているメンバー。
買い物しながら、私は「今日実はさっき帰ってきたばっかりなんだー…」と
友達に話す。
「お泊りデートでした」と言うと、小学校からの親友が、「まじ!?」とびっくりして
声をあげた。彼女は、「なんで正義感の塊みたいなナツがそんなことを?」と思っているみたい。
みんなに詳しく話してないので、今日は聞かれるにきまっている。
小沢さんと付き合いだして最初の頃に、『期間限定で彼氏できました。なんでかっていうと不倫なので!』と明るくメールしたっきりだし。
「後で詳しく聞かせていただきましょ」ともう一人の友達が言った。

買い物を済ませ、親友の家に到着。部屋に上げてもらって、飲み会スタート。
みんなビールだのチューハイだの、ワインだの、好きなのを好きなだけ飲み始める。
「で、ナっちゃん」と友達から話しを急かされた。
親友も納得いく説明が聞きたい、という顔をしている。
「うん。会社の上司なんだ。ずっと5年間、私のことを何かと守って来てくれてた人で…。この不況でしょ? 会社から希望退職を募るって言われて、その上司が辞めることになったわけ。で、別れがたくてさ、お互い…。ずっと繋いできてくれてた手を離されるのが嫌だったんだ…」
私はかいつまんで説明した。
「そっかー。その気持ちは解るわー」と親友が、納得したのか、心得顔になった。
「で、期間限定なの?」もう一人の友達がまた質問をする。
「だって、彼には奥さんいるし。良くないことだってのは解ってるのよ」
「で、でもさ!」なんだかこの子は必死。今日のメンバーの中では
この子だけが結婚していて、ちゃんとまともに恋愛してきた子だった。
「でも!期間が過ぎたら、その人は、奥さんの元に帰ってくんでしょ?
ナっちゃんだけ一人じゃん!!」

私は、力なく笑った。
「そーだね。でも解ってることだからさ」
そう言いながら、初めて友達の口から聞いた、女の子としての一般論に
心の準備ができていなかった。
「それに、好きだったら、期間区切って別れるなんて、できるわけないよ」
「そうかもしれないね…」
その時になってみなきゃわからないけど、今は『そうしなきゃ』としか思えなかった。
こんな関係どちらの為でもないんだから…。
でも、『ナっちゃんだけ一人じゃん!』という友達の声が頭から離れなくなってしまった。

友達が「だってナっちゃん、子供とかできてもその人に言わずに黙って産んで育てるタイプやーん!」と友達が勝手な私のイメージを言っている。

こういうのが、普通の反応、なわけで。
頻繁に連絡を取り合っている私の周りの友達は、さばさばしすぎていて、
どこか普通の女の子の考え方をしていない子が多い。
その子達の反応は、「ナツが好きになれる人に出会えて良かったよ」というものだった。「ていうか、不倫、とか報告してこなくても…。正直すぎるよ、あんた…」と笑われたりした。
飲み会の出だしにぶつけられた、一般論に、打ちのめされて、
この日は、結構飲んだ割には酔う事はできなかった。
遅れて来た友達にも同じような話しをして、
この日は終了。

私だけ一人、でもいいんじゃないかと思う。
これまでだって一人でやって来た時間の方が長いんだし。
私はきっと大丈夫だよ。壊れたりなんか、しない。
2
タグ: 小説 実話

2010/3/21

<その23>小沢さんの事情  ノンフィクション

<2009年11月29日>

初めて二人きりで過ごす夜、さんざんじゃれ合ってはいたけれど、
小沢さんは結局何もしなかった。…というかできなかった。

「…だめだーー!お前のこと、大事すぎてできん!」
小沢さんが心から悔やんでいるように言った。
こんなに真剣に弱音吐くような姿は初めて見たかもしれない。
小沢さん、ものすごく気負い過ぎだ。
「なんでだろ…。俺、家でもやってないんだぜ、1年くらい…」
「?なんでー?」
奥様は小沢さんのこと、大好きなはずだから、拒否られてるわけじゃないだろうと思って聞いた。
「ほら、前、うちの奥さん、婦人科にかかったやん?」
小沢さんが在職中、奥様が腹痛で婦人科に運ばれたことがあった。
奥様は子宮外妊娠をしてしまっていた。
子宮外妊娠は七転八倒するくらいの激痛と聞く。
「そのときに、卵管が一つダメになって、あと一つが潰れたら、
子供産めなくなっちゃうのな。
子宮外妊娠しやすい体質みたいだから、もう、セックスもやめよう、って話し合って」

深刻な事情を小沢さんは私に話してくれた。
「それでさ…、今、病院で体外受精やってんの」
小沢さんが私の顔をまっすぐに見て言う。
「…そう、なんだ」
私がつぶやく。
「うちの奥さん、もう40前だし、子供作るなら早くしないと産むのがキツいからな」

私はベッドの淵に座って小沢さんの頭を抱きしめた。
「パパになるなら、ますますがんばって働かなきゃね」
「まぁな。あーーーでも働きたくねーなー」
最近のニート生活に慣れてきた小沢さんが本音を漏らす。
「仕事はしたいんだけど、朝早く起きて、決まった時間に出勤、ってのがムリ」
「ムリがあるかーー(怒)」
元上司をしかりとばして私が言う。

「今日できそーにねーから、明日がんばろ!」
小沢さんが布団に潜り込んだので、私も隣に入った。
「腕枕、する?」
「いいよ、手痛くなちゃうから」
私は小沢さんの腕にこつんと額を付けて目を閉じた。
小沢さんがパパになったら、そのときは、私はさっさといなくなろう、と思いながら…。

朝、目が覚めたら小沢さんが隣に居てびっくりした(笑)
同じくらいに目を冷ました小沢さんに「おはよ」と声をかけると、
小沢さんが「田中がやらしーー!」と何やら大喜び。
起きてすぐ携帯で時間を確認すると、7時半。
まだゆっくりできる。
「よし、昨日の続き!」
いきなり張り切る小沢さんに捕まって、
逃げる間もなく、押し倒された。

「ゆっくり、な?」
小沢さんが優しく言う。
「うん…」
私は小さく返事をした。
私が痛がると小沢さんは途中で止めてくれて、大事に大事に抱いてくれた。

「大丈夫?」
小沢さんが言った。
「大丈夫。まだちょっと痛いけど…」
覚悟していたよりは痛くなかったけど、私は強がらずに言って、服を手に取った。
「着替えてくるね」
そう言って、バスルームに向かおうとすると、
「ここで着替えればいいじゃん?」
と小沢さんが言う。
「やだー」
ストッキングを履くところとか、あまり見られたいもんじゃないので
私が言った。
身支度をして私がバスルームから出て来ると、
小沢さんはテレビで「ONE PIECE」を見ていた。
「あれ?歌が変わってる」
そう言って声をかけると、
「お、キレイになった」
私が化粧直しをしてきていたので、小沢さんが振り向き様にそう言った。
小沢さんもVネックのニットを着て、スタスタと私の方に歩いて来て、
いきなり私を抱きしめた。そしてキス。
「あ、リップとれちゃった」と小沢さん
「せっかく塗ってきたのにー」
私が膨れてバスルームに引き返そうとすると、
小沢さんが後ろから着いて来て、洗面台の鏡の前で私を抱きしめた。
「もうちょっとこうしてたい…」
帰り仕度をする私の姿が嫌だったのか、小沢さんがダダをこねた。
「じゃ、時間ギリギリまでこうしてよ?」

化粧直しは諦めて、再びソファに並んで座った。
小沢さんが昨日コンビニで買ったポッキーを開けて、
「コレだろコレ」と言って
私の口に、チョコレートの方を突っ込んで、
反対端を自分でくわえた。
端っこからお互い食べながらキスする、という
ベタなことがしたかったらしい。
男の子の方がロマンティックだとつくづく思う。
そろそろ退室の時間が近づいて来たので
部屋を出る事にした。
「コーヒー飲みたいねー」
ということで、部屋を出て、天神まで歩き、ドトールに入った。
「丸1日一緒に居たけど、あっという間だったなー」と小沢さんが言う。
「ホントですねー。でも楽しかった★」と言って私は笑った。
本当に夢のような1日だった。まさかの冒険も果たしたことだし。
店を出て、小沢さんがバスに乗るバス停まで手を繋いで一緒に歩く。
バスの時間までずっとぴったりとくっついていた。
バスが来たので、小沢さんを乗せて、私はバスの中の小沢さんに向かって手を振った。小沢さんも手を振り返してくれた。
「バイバイ…」
発車したバスを見送ってから、私は地下鉄へ向かって歩き出した。
さっきからうるさいくらい鳴っている携帯を確認すると、
父からの電話だった。
「今帰ってるとこで、電車に乗るからまたしばらく電話出れないから!」と
言うと、やっと電話攻撃から解放された。
小沢さんと別れた後は、いつもたまらなく淋しい。
小沢さんもそう思っていてくれたみたいで、すぐにメールが届いた。
『バスに乗ったら、急に淋しくなったよ。一日中お前と居たのにな』
家に帰った後の言い訳やフォローの戦法を組み立てながら、
私は休日の朝の、人が少ない電車に乗り込んだ。
1
タグ: 小説 実話

2010/3/6

<その22>ワガママ  ノンフィクション

<2009年11月28日>

「帰んなよ」

小沢さんが言った。

キャナルシティを後にして、後々移動が楽なように、天神に戻る。
外はもう真っ暗。歩いて行く途中、
夕飯には少し早かったし、お腹も空いてはなかったけど、
時間の都合が悪いってことで、
軽くて済みそうな、焼き鳥屋に入って、少し飲んだ。
映画の感想など言ったり、最近の会社の状況など報告しながら、
カウンター席で隣同士に座っていると、時々小沢さんがカウンターの下で、
私の手握った。

「今日、帰んなよ」
小沢さんがまっすぐに私を見て言った。
「えーー!でも泊るって言って来てないよー!」
私が慌てて言う。
一応切り替えれるようには下準備してきているけれど…。
「だって、もうこんなチャンスないぞ」
切実に小沢さんが言う。
「うん…そうだね…」
そりゃあ一緒に居たい。ずっとずっと一緒に居たい。
ただ、それが良い事でないことは解っていて。
だけど、ふと思う。
もう恋なんてしないかもしれない。
私自身が、一目惚れして恋にのめり込むタイプじゃないし。
常に恋人が居なきゃいけないタイプでもない。
年齢も年齢だから、昨日みたいな見合い話がいっぱい舞い込んできて、
そのうちのどれか、好きでもない人と一緒になるんだろう。
好きでもないオジさんに抱かれるのが私の運命なら、
ここで我がままにならないと、私はきっと後悔する…。
そんな事を思いながら小沢さんの方を見ると、
不安げに返事を待っている小沢さんのまっすぐな瞳を見つけた。
「…うん。帰らない」
「まじで!?」
「うん」
小沢さんが子供みたいにぱあっと顔を笑わせた。

もう食べきれない、ってことで、焼き鳥屋を出たところで、
小沢さんが言う。
「つっても、俺、知らねーんだよな、あんまし」
「こないだのとこで良いんじゃないですか?」
私は、誕生日に休憩した部屋のことを言った。
「そうだな。じゃ、そこに行こう」と小沢さん。
手を繋いで歩きだした。
15分くらい歩いて、前休憩したホテルのエントランスをくぐる。
なんと満室。部屋が空くまで、1時間くらい待つみたいだった。
「んー、この辺だとなぁ…。あっちに良く行くバーがあるんだけど、
そこ行って時間潰すか?」
「うん!」

一旦ホテルを出て、公園の近くまで歩いて来たところで、
小沢さんが携帯の着信に気がついた。
「…奥さんからだ…」
申し訳なさそうに、小沢さんが立ち止まる。
「ご飯の事とか心配されてんじゃないですか?電話してくればいいのに。」
私がそう言うと小沢さんは「うん」と言って、公園に向かった。
「ちょっと待ってて」と言われて、
私から少し距離を置いて、奥様に電話する小沢さんを、ちょっと遠くから見て、
私は公園の遊具に登った。
滑り台の一番上から公園を見渡していると、
電話が終った小沢さんがまっすぐに滑り台の下にやって来た。
「ごめん。淋しい思いさせて」
「大丈夫だって。前から奥様が居るの知ってるんだからー」
そんなことを言いながら、私は滑り台を滑り降りた。
一番下で小沢さんが手を掴んで引き上げてくれた。

それから、小沢さんに連れられて、
公園からすぐ近くのビルの中のバーに行った。
カッコイイ女性がカウンターの中から飲み物を出してくれた。
「ここは、よくデベ会の3次会で使ってたんだ」
誰と誰と誰が参加者で…と小沢さんが私が知ってる人の名前を上げていく。
そういえば、大雨で電車が不通になって、私が博多に閉じ込められたとき、
その会の最中だった小沢さんは、メンバーのみなさんを捕まえて、
どこか空いてるビジネスホテルがないか一斉に探させてくれた…。
なんとか一室見つかったのだが、私がもたもたして問合せが遅れてしまって、
私が教えてもらったビジネスホテルに連絡した時には部屋は既に埋まってしまっていて、泊ることはできなかったけれど。
そんな事を懐かしく思い出して、暖かい気持ちで小沢さんの隣に座っている。
1時間くらい経ったので、店を出た。
狭いエレベーターに乗って扉が閉るなり、小沢さんがかがんでキスをした。
「もう!開いちゃいますよ!? もーちょっと我慢しませんか?」
なぜか私が注意すると、小沢さんは、子供みたいに
「だって、今日ずっとしたかったんやもん」と言った。
途中コンビニに寄って買い物をしたときに、
私は家に友達の家に泊ってくると電話した。
これでやっと安心して小沢さんと一緒に居れる。
「定番にポッキーとか?」とポッキーを片手に小沢さんが言う。なんの定番だ?

コンビニから部屋はすぐ近くだったので、あっと言う間に到着。
土曜日の夜だから、宿泊客もすごく多い。
少しお高めの部屋をセレクトし、音声ガイダンスに従って、エレベーターで階に上がる。
「うわ!ひっろーい!」
部屋に入るなり、部屋の広さとベッドの大きさに驚いて声を上げた。
「ほんと、広いなー。ここって、元は普通のマンションじゃねー?改装してんだろ」
さすがは元業界人。そんなところに目が行く小沢さん。
話しながら、小沢さんはコートも脱いでいない私を後ろからため息まじりに抱きしめた。
「早い早い!」と私がむずがる。
「んー。だって…」
お互いコートを脱いでハンガーにかけると、すぐに小沢さんが私を抱き寄せてキスをした。
キスをしながら小沢さんの手がゆっくり私の体に触れて行く。
怖くないから不思議…。学生時代はガタガタ震えてしまっていたのに。
「うっきゃぁ!」
小沢さんにいきなり持ち上げられて体が浮いたのでびっくりして叫んだ。
おろしてー、と言おうと思ったけど、小沢さんが私の好きな笑顔を浮かべていたので言葉を飲み込んだ。
二人でベッドに倒れこんで、キャッキャと笑ってじゃれていると、
小沢さんが片手でブラのホックを外した。
「待って」
私は小沢さんを止めて、ニットとスカートを自分で脱いだ。
このままじゃれ合って脱いで、その辺に脱ぎ散らかしたりすると、
明らかにシワシワになって明日の朝、親に勘ぐられるといけないから。
「お前、腹を決めたら潔いのな」
小沢さんが言う。
「そうですよ。意外と男らしいんです」
それでも下着姿で小沢さんの前にいれなくて、私はベッドに潜り込んだ。
素肌にこすれるシーツの感覚が気持ち良い。
恥ずかしがっているのがバレたのか、小沢さんが笑って私の手を引いて、
ベッドの上に座らせて、後ろから抱きしめた。
「お前、背中もすっげーキレイ」
キャミソールをスルっと脱がせながら、小沢さんが言う。
背中、とか冗談じゃない。自分じゃ見えない、手が届かないところなんだら、
小沢さんの視力2.0のフルハイビジョンでじっくり見られると自信がない。
「やだー!中に入るー」
私がぶーぶー言いながら小沢さんの手を逃れてベッドの中に潜り込んだ。
「あ、逃げた」
小沢さんもシャツを脱ぎ捨てて隣に潜り込んだ。
ベッドの中で顔を寄せてキスをしながら話しをする。
「…お前とは、前世から何かあるんじゃないかって思う。
だって、初めて出会った時から、目が離せなかったんだ…。
生き別れた妹とか、かもな。」
小沢さんが言う。やっぱり極度のシスコン、という私の見解も、まるで間違いではなかった。
「私、まだ妹?」
「んーーー…、もう、違うなぁ…裸でこんなことやってんだから」
そう言って小沢さんは私を抱き締めた。そしてニヤっとする。
「まさかお前にこんなことまで教えるとはな」
「えー!?いきなり上司風? やめてーー!新人教育っぽく言わないでー!」
「ハハハッ」
小沢さんの笑顔はまぶしすぎる。屈託のない笑顔に、心が締め付けられてしまう。
今まで何度となく見た笑顔なんだけど、大好き。
「俺はお前の笑顔が大好きで。お前が笑ってると、すげー嬉しくなるんだよな、昔から」
私が小沢さんに対して思っているのと同じような事を小沢さんが言う。

私は枕に頭を乗せたまま、見上げるような形で小沢さんの顔を見ている。
小沢さんは細い人だけど、肩や腕のラインは男性らしくてすごく綺麗。
小沢さんが首や胸元にもキスをした。
くすぐったくて、じたばたしていると、小沢さんが「緊張してんな」と優しく言った。
「…うん…」
小沢さんの愛撫に耐えきれなくなってきて、私は小沢さんの髪を撫でた。
「ん?」
「キスして?」と言うと、私がそう言う理由が解ったみたいに、小沢さんは、
「ダーメ」と言った。

「愛してる…」
小沢さんが何度も耳元で囁いた。
そんなこと言っていいの?と思う。
簡単な気持ちじゃないんだって、小沢さんが私に伝えたいことは解る。
私だって、こんなにワガママに小沢さんとの時間を選んだ。
今日だけは、みんなから望まれる良い子をやめて、小沢さんの腕に飛び込んだんだ。
「大好きです…」
小沢さんが笑ってくれる。
「大好き…」
私も何度もそう言った。
1
タグ: 小説 実話

2010/2/28

<その21>夢のような  ノンフィクション

<2009年11月28日>

小沢さんとのデートに備えて、いろいろ準備。
マニキュアを塗り直して、イオン導入噐で肌を整えて。
脚とか腕とか永久脱毛しといて良かったなーと思う。
お手入れがずいぶんらくちん★時間はお金で買えるのです★
ボディミルクで、カサカサがないように、綺麗にして、いざデート。
自分でも可笑しいくらい、小沢さんのために一生懸命になっている。
5年も隣の席で上司だったのに(笑)

小沢さんとは、10時に天神で待ち合わせている。

友達と昼間遊んで夜はその友達の家で飲み会するから、自棄酒してくるかも、と母に言って、8時半頃家を出た。
昨日の見合いの一件で自棄酒に走って、お泊りコースに切り替えても不自然じゃないように。

10時少し前頃、待ち合わせしていた場所についた。
小沢さんからメールで、「バスが遅れてて、少し遅くなる」と連絡をもらっていた。
今日は天神地区中心のデートコースなので、車があると余計に不便ってことで、小沢さんは久しぶりに公共交通機関を使っている。

そんなに待たないうちに、小沢さんが「ごめん!」と言いながらやってきた。
「おはようございまーす」と挨拶。この辺は未だに会社の部下。
隣に並ぶと、小沢さんは私の頭をぽんぽんと撫でた。
「…大丈夫か?」
「はい。今日のデートを楽しみに乗り切った」
私は元気そうに答えた。
「うん。今日は、楽しもうな」
小沢さんが優しく笑ってくれる。

私たちは、手を繋いで、福岡県立美術館に向かって歩きだした。

福岡県立美術館は、大きな噴水がある公園に隣接していて、以前公園に立ち寄った時に、『大原美術館〜名画に恋して』の予告ポスターが飾ってあるのを見て、「これ、見に行きたいね」と言っていたのだ。
美術館の入り口には、どーんと、今回のイベントの代表作のモディリアーニの印象的なポスターが立て看板に貼られていた。
モディリアーニの絵は、ちょっと怖いと思う。
色使いなどは斬新で印象的なんだけど、なんだか怖く見える。
「モディリアーニ、怖いですよね」と私がつぶやくと、
「目とか、パーツは綺麗なのになー」と小沢さんが言った。

展示室に入ると結構な人入りだった。小沢さんが小声で、
「俺、見るペース早いと思うから、お前は自分のペースで見て良いからな」と言う。
私は美術館や博物館が、大好きだ。
今回この会場来に来ている絵画の作家のものも、以前パリの美術館で見たことがある。
パリのルーブルでは、画家の渾身のパワーに圧倒されて、ジーンズの下では鳥肌がたって、手は汗ばんでしまったほど。特にダヴィンチコーナーの迫力はすごい。

この美術館ではそこまで衝撃的なものはなかったけれど、(ルーブルの空間が特殊なんだと思う)
ミレーやモネ、シニャックなど、好きな画家の絵がまた見れて楽しかった。
小沢さんと二人で、じっくり絵を堪能しながら、小声で感想を言い合ったりした。
なかなかインテリなデートだ(笑)
2時間くらい見て回って、美術館を出た。
たった2時間でも、集中して頭に詰め込んでいると、意外と疲れる。
大きな博物館に行くと、たいてい、私は頭が消化不良気味になって、ショートしてしまう。

「もう昼だなー。映画、何処行く?」
小沢さんが言った。
この美術館から行ける範囲の映画館はぱっと思いつくところで3つある。
天神東宝、中洲大洋、キャナルシティ内ユナイテッド・シネマ。
<2012>の上映時間もそれぞれだけど、
人目につかない事を優先して、会社が近い天神から少し離れたキャナルシティに決定。
「じゃ、キャナルで昼飯にしようか」
キャナルシティまでせっせと歩くことにして、二人で手を繋いで30分強の道のりを歩いた。
「誰かに見られたりしないかなー…」
真っ昼間だし、私は冷や冷やだ。
「じゃ、こっちの道抜けるか?」と小沢さんが、中洲の中を通って行く道を提案。

ま、真っ昼間の今の時間、飲屋街のこの道は、人自体があまりいないわけで。
そうしようということで、手を繋いだまま、てくてく歩いていた。

「あれ?小沢さん!」
その道に入るなり、正面から歩いて来た若い男性とベビーカーを押した女性が立ち止まった。
「え?えーーー!?」
驚きのあまり、私の手をぱっと離す小沢さん。
「どーしたんですか?こんなとこで?」
知り合いらしいので、私はペコっと頭を下げた。
特に何も聞かれることもなく、挨拶程度で別れた。
後で聞いたら某デベロッパーの社長さんの息子だそうで、
小沢さんが主催していた業界の人たちの集まりのメンバーなんだそう。
「あちらの会社にも誘われたんだけどなー…。同じ業界を選ぶ気はないんだよな…」
と言いながら、私の手を繋ぎ直して小沢さんが言った。
「ごめんな、手、離して。しかし、びびった−ーー!なんでこんなとこで会うんだよ?
あの綺麗な奥さん、40超えてんだぜ。スゴくない?」
「えーー!あの美人な人!?それはすごい!」
「ま、あっちも今頃、『小沢さんの奥さん、年上って言ってたのに若いなー』とか言ってるよ」

「あはは、ごまかしきる気?バレそうだったら、正直に話して言いくるめてた方が良いですよ。変に勘ぐられて広まるより、キッパリしてる方が噂になりにくいから」
そんな事を言いながら、歩いていると、すぐにキャナルシティに到着。

昼食を食べて、映画の時間まで、カフェでコーヒーを飲んで過ごした。
間もなく時間になって映画館の中に入る。3時間弱の上映の間中、私は小沢さんの手を握っていた。
〈2012〉は『一番大切な人と見て下さい』というキャッチコピーが良い。
映画はもう少しマヤの神話の部分に触れて欲しかった、と思うような
アメリカンなノリの映画だった。

「お前、絶対手離さないんだもんな…」
小沢さんに苦笑されながら、キャナルシティの中を歩いていた。
広場で地元インディーズバンドが演奏をしていて、立ち止まって聞いた。
男の子3人による、冬の切ない失恋の歌だった。
小沢さんの袖をきゅっと掴んだまま、顔は広場に向けたまま、
音に聞き入っていると、歌がすっと心に入ってきて、
気がついたら泣いていた。
小沢さんがそれに気づいて、髪をそっと撫でて、肩を軽く抱き寄せてくれた。
「あの歌詞はまずかったなー。良い歌だったけど!」
歩きながら小沢さんが言った。私はハンカチを握ってまだグスグス言っている。

終わりがくるのは解っていた。最初からそう二人で決めたんだから…。

一日中小沢さんと一緒にいれた夢のような日。
嬉しかった、楽しかったと笑えばいいのに。
1
タグ: 小説 実話



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ