(無題)  

晃 ならん、生命に掛けても女房は売らん、竜神が何だ、八千人がどうしたと! 神にも仏にも恋は売らん。お前が得心で、納得して、好んですると云っても留めるんだ。
鉱蔵 (ふわふわと軽く詰め寄り、コツコツと杖を叩いて)血迷うな! たわけも可い加減にしろ、女も女だ。湯屋へはどうして入る?……うむ、馬鹿が!(と高笑いして)君たち、おい、いやしくも国のためには、妻子を刺殺して、戦争に出るというが、男児たるものの本分じゃ。且つ我が国の精神じゃ、すなわち武士道じゃ。人を救い、村を救うは、国家のために尽すのじゃ。我が国のために尽すのじゃ。国のために尽すのに、一晩|媽々を牛にのせるのが、さほどまで情ないか。洟垂しが、俺は料簡が広いから可いが、気の早いものは国賊だと思うぞ、汝。俺なぞは、鉱蔵は、村はもとよりここに居るただこの人民蒼生のためというにも、何時でも生命を棄てるぞ。
時に村人は敬礼し、村長は頤を撫で、有志は得意を表す。
晃 死ね!
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鈴屋ホテルに対する思い  

月世界へ寄って道草を喰うのはつまらんじゃないか」
「そうじゃないよ、岸君。月世界は地球に一等近い星だ。地球にとってはいわゆる隣組さ。月世界の役割は今後ますます重要になる。つまり月世界をまずわれら地球人類の手で固めておかなければ、今後の宇宙進攻はうまくいかない」
「月世界をわれら地球人類の前進基地として確保しなければならぬというのだね」
「そうだ。これは誰にも分る話さ。只、ぼんやりしていたのでは、それを思いつかないだけのことだ」
「なるほど」
 僕はフランケの言葉に同意しないわけにいかなかった。
「われらの月世界着陸は、最も重大なる意義があるのさ。恐らく今度の航程のうちで、最も大きな収穫が期待されているのだと思う。場合によれば、僕は月世界の残留組を志願してもいいと思っている」
 さすがにフランケは、しっかりしたことをいう。死の星である月世界なんかつまらんものだと考えていた浅薄なる僕の認識は、これによって訂正せられなければならなかった。
「月世界へ着陸するのは、あと何ヶ月かね」
「何ヶ月もかからないだろう。多分あと三週間もすればいいのじゃないか」
「三週間? そんなに早いのかね。じゃあ今後三週間は、われらは退屈でしようがないというわけだろうな」
「断じて否さ。出発以後、今日で十三日目だ。退屈した日が一日でもあったかね」
「君のいうことは正しい。
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