2012/7/13 | 投稿者: 溺れる人

 真冬、一月の海は、冷たかった。その冷たい水を遮断するために持ち込んだ長靴は、その場で脱がされた。水がたまって、人を下に引っ張る危険があるからだ。
 そういうわけで、はだし同然の薄っぺらい靴を履いて、海に向かった。これが悲惨だった。靴下を脱いでいたため、砂利が靴の中に入ると、肌の上でゴリゴリ痛んだ。水が冷たいだけに、刺激が数倍になって感じられるのだ。
 これまた中古の、薄っぺらいウェットスーツを着用して、海に滑り出す。だが、気持ちいいどころか、北風をもろに味わって、体は冷えるばかり。こんなに過酷とは!

 それでも、合計6回のレッスンを何とか乗り切った。
 タッキングはそこそこできるようになったが、ランニングと、ジャイビングは、どうしても苦手だった。後ろから風を受けるランニングでは、風の有無を体感しにくい。アビームのように、横風であれば、たまに吹く強風にも、その場で素早く対処すれば、沈は避けられるのだが、ランニングではそうもいかない。また、そういうランニングの状態で多用するジャイブも、当然ながら苦手だった。いつも艇が不安定になるのが嫌だった。
 ヨットをやっていると、船体の傾きのよしあしがわかる。自分の尻があがるのは、実はそれほど危険ではない。よほどの強風、突風でない限り、ロープを緩めれば転覆を回避できるのだ。だが、尻が下がるとなると、これは危険信号だ。ひっくり返ってもおかしくない。

 それからヨットは、一年ほどは楽しんだ。
 だが、ほかならぬこのヨットに、女性を乗せ、それが彼女になってしまったがゆえに、海とは縁遠くなり、いつしか足が遠のいていった。
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2012/7/12 | 投稿者: 溺れる人

 大人になり、SEとして働き出して数年。
 ある年の冬に、私は退屈を感じた。

「ねー、○×ちゃん、なんか面白いこと、ない?」

 私の口癖だった。
 同僚もそこは心得ていて、適当なことを口にした。

「△□さん、ヨットやれば? ヨット」

 まだ、真冬の一月だ。なのにヨット? 水がどれだけ冷たいか、知っているのか?
 だが、言われればなんでもやってしまうのが、私の性質だ。本当に逗子周辺のヨットクラブを探し出し、そして見つけてしまった。たった20円で購入できるヨット。それは、ヤマハのシーマーチンの中古だったのだが、これに飛びつくことにした。

 だが、いきなりヨットをくれ、といっても、そんなに簡単に買えるわけがなかった。ヨットクラブは、まず最低限の講習を受けることを要求した。その上で、やっと船体の購入を許可してくれる。まずは、大型で、複数の人が悠々のれる、シーラークでの訓練をしなければいけなかった。
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