あんたの中には龍が棲んどったわ〜(ないない)。
【概要】
1981年発表。電子発振式。鍵盤数61。
ピアノ、ストリングス、オルガンなど12のメロディー音色、
16の自動伴奏スタイルを内蔵。
イニシャルタッチ、アフタータッチ等無し、MIDI端子なし。
定価:158000円
【発売当時のこと】
このモデル、PERSONAL KEYBOARDと銘打たれていますが、単なるホームキーボードです。ただし、KORGとしては初のホームキーボード市場参入機種で、メロディーを弾いただけで伴奏が付いてくるという世界初の機能(コンピュ・マジック・アカンパニメント)を搭載したものという記念碑的なモデルでした。しかし、バンド活動を始めていた私は、『音楽やるにはやっぱり生でしょ?』と、鼻で笑っていました。
とはいうものの、これを出したのがヤマハならさておき、隙間モノ大好きなKORGだったという事がとても奇異に映っており、ひそかに気になっていたのも事実でした。外観も白モノ家電のキーボードにありがちな丸っこくて安っぽい感じが無く、白とグレーのストライプを基調にしたシンプルなデザインと158000円という定価----当時、同じカタログに掲載されていたMONO/POLYですら、148000円なのに----これは普通のモノではないのだろうと。しかし、音を聴く事はかなわず----というか楽器屋でホームキーボードを鳴らすというのが、なんとなく気恥ずかしかったので----ネットオークションで見つけるまで、こいつのことはすっかり忘れていたのでした。
【銘機の末裔の香り?】
入札期間中、SAS-20について、いろいろネットで調べてみましたが、どいつもこいつもカタログスペックの丸写し。写真もどこからかの転載ばかりで、肝心の音をアップしていないという体たらくの使えない情報ばっかり。大体にして、外形寸法なんか載せて、どうすんの?と言いたい。で、オークションの方は、さほど激しい競り合いを見せる事も無く、落札。ちょっと不安ではありましたが、07年8月上旬、自宅にブツが届きました。
61鍵盤の割りにコンパクトな印象を受けますが、持ってみると結構重い。筐体が木で出来ているためです。が、それに反して、この軽い音....イコライザーで持ち上げようにも持ち上げられないモコモコしたピアノの音には、一瞬愕然としました。それでも、ブラス、ストリングスや、クラリネット等の一部の持続音系は、結構使える音でした。おそらくポリアンの流れを汲む音なのでしょう。ストリングスの音で、『オペラの怪人』のフレーズを弾いてみました。ちょっと凄みにかけるものの、弾いてみてまんざらでもありません。一系統しか音が出ないラムダみたいなものと思えば、得した気分です(無理があるで>自分)。また、クラリネットは700S、ブラスアンサンブルは800DVの香りがしました。かなり薄味ですが、これらの音色だけでも買った価値があるというものです(と思いたい.....)。
【コンピュ・マジック・アカンパニメント】
現行モデルのアルペジオ機能などに比べれば、このモデルの伴奏パターンはチープです。チープって英語で言うと、なんか逆手に取ったカッコよさみたいなものを感じがしますが、単に安っぽいという印象しかありません。時代を考えれば、当たりまえな話ですけれども、それだけに自分で手を加えて、何かを作り上げようという気持ちがわいて来ないでもないというと嘘になるかというとまんざらでもないと、誰かが言ってた(どっちやねん>自分)。
通常の伴奏モードでは、鍵盤の下から19鍵内でコードを押さえると、そのコードに対応したアルペジオとベースラインが生成されます。この伴奏を、コードを押さえなくても生成させてしまうのが、コンピュ・マジック・アカンパニメントと称される機能です。まず前段階として演奏したい曲調を4つの中から選ぶようになっています。メジャー、マイナー、それぞれについて、単調なもの(I)と、マイナーとメジャーが比較的多く混在するもの(II)とを選べるようになっています。が、良く考えてみれば、この時点で、このキーボードは失敗といえます。『音と遊ぶ』という観点はよいのですが、購入層の大前提としてズブズブの素人をターゲットにしているのに、いきなり『弾いてみたい曲調』を選ばせる、というのは無理があるんじゃないかと思うんですけどね....。
とりあえず、難しいことは考えずにいじってみます。曲調はマイナー(II)を押し、Amが鳴るようにして、伴奏をスタート。適当にフレーズを思いつくままに弾いて見ますが、思っているようなコードが付かず、イライラが募ります。はっきり言って、動きの早いメロディーには、ついて来ないし、メジャーにしたくないところでメジャーになる(どうやらIIを選ぶとそうなるらしい)。で、何回かコードがグルグル回って、Amに戻ってきて、しばらく、ドの鍵盤を押しっぱなしにしていると、勝手にAm→Dm →F→Amに展開しやがるのには、笑ってしまいました。なんか、このキーボードの中に何か生き物が棲んでいるみたいで。さすがに龍は棲んでいませんでしたが(笑)。
この手のホームキーボードには、必ずといっていいほど、『カントリー』とか『ワルツ』とか『ブルーグラス』等のパターンが内蔵されていますが、それらってそんなに需要があるジャンルか?と思っています。まあ、北米ではそれなりのニーズがあるのかもしれません。そのためか、伴奏パターンを別売りのカートリッジで供給しようと言うももくろみがKORGにはあったようですが、結局この手のキーボードは、90年代に、iシリーズが出るまで影を潜めることになります。まあ、ドレミの歌とかチョウチョ程度の曲も追従できないようでは、如何なものかと....。
【デモ演奏】みかん水 by線文字B
使用楽器:Korg SAS-20、Roland DC-30 (Analog Delay) , DE-200 (Digital Delay) , Roland Fandom X6
伴奏パターンがあまりにもツマラナイので、ディレイをかけて遊んでいたら、喜多郎っぽくなっているのに気が付きました。で、700Sや800DVっぽいメロディー音色でアドリブで弾いてみたら、見事に”マインドトリップ”できました。それで一発録りしたのがこの曲です。鳴っている音は、すべてSAS-20です。喜多郎の名曲『無限水』ほど、クリアな感じに仕上がっていないんで、タイトルはみかん水にしました。
伴奏は、8分の12拍子のslow Ballad。コードとベースが徐々にフェイドインしてきます。Am→Gmの繰り返しは、コードエリアで鍵盤を押さえています。フィルインの後、ドラムが入ってきます。16分音譜のハイハットの刻みが聞こえますが、これは、ディレイが裏拍に来る設定によるものです。これで、単純なドラムパターンも複雑に聞こえます。エフェクトのボリュームを低めに抑えれば、ゴーストノートっぽくも聞こえます。
700S風の笛が入ってからあとは、すべてコンピュ・マジック・アカンパニメントが自動的にコードを付けています。部分的に、ちょっとコケてしまうところがありますが、ここまでゆったりしたメロディーであれば、なんとかついて来られるようです。700S風の笛、800DV風のブラスの後、再度700Sの笛にしたところで、メロディーコードというボタンを押しています。これにより、弾くのは単音でも、コード伴奏に合わせた和音が勝手にくっついてきます。そして、最後、ドのロングトーンが続いている部分、SASが勝手にAm→Dm →F→Amと展開させています。
というわけで結論、このマシン、ホームキーボードは表の顔、実は、隠れマインドミュージックマシンだった(大嘘)。なにはともあれ、電源入れてすぐに音が出る楽器というのは、どことなくカワイイものです。
【資料】
カタログ

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