2014/5/5

ある教授の思い出  短歌

甥が大学生になって、自分の大学時代とは隔世の感があるので、思い出す授業風景を書いてみよう。私が大学に入学した年が東京オリンピックだったのだから、随分古い話であるが本人にはついこの間のような気分がある。でもどこの大学も高い建物を建て、学生を増やしているので母校に行って見たらすごく変わっているのではないかと思う。

その大学は中ぐらいの規模の歴史は古いキリスト教の学校だったから、私は国文科だったけど文学部以外は殆どが男子学生で女子はぱらぱら、文学部は大半が女子と言う感じだった。教職者も殆ど男性で、外国語の外人教師だけが二三人女性だった。教授は東大出が多く本学生え抜きの先生の育っていない時代だったが、学生集めのためにマスコミに取り上げられた人を特別講師や名誉教授に迎えるはしりの頃でもあった。
国文科は百人位で、必修科目の時以外は五十人くらいが普通の大きさの教室で結構おとなしく講義を聞いていた。研究発表のある「演習」の時間以外は、その先生の研究を理解しようとしておとなしかったのだ。(尤も、ある大作家の娘さんは出席をとると、音を立てて出て行ったものだが)
ある教授(仮に金子さんとでもしておく)は、平安文学の専攻で、穏やかなお年の先生だった。学生は入学してまだ受験のための文法でガチガチだったから、金子先生ののんびりした古典解釈に、鋭く文法の突っ込みを入れるものもあった。しかし教授はとぼけた顔で「きみ、文法なんてねー」といってその先はまるで取り合わないので、皆拍子抜けがしたものだった。今になって、古典の舞台になった当時は文法なんてなくて、流行の言葉が皆で使って定着していった物だと分かるのだが、学生時代は文法にぶら下がってやっとこ古典を読みこなしていたのだ。それでも金子先生はじめほかの先生も、あまりにも気にしないので、学生も古典の理解は「なれ」だと言う風がしみ込んでいった。

ある晩秋の午後、あれは何号館の三階だったか、金子先生の「古今集」の授業があった。窓の外にはキャンパスの木々が紅葉し、時折風に乗って落ちていく。先生は和歌を一首読みあげ学生はその解釈をきこうとじっと先生を見ていた。しかし先生はさっと片手をあげてその手をひらひらと振り何も言わない。窓の外をみると木の葉がさかんに舞い落ちているのだ。先生はしばらく木の葉に添って手を振りおろし、やがて一言「いいですねー」と宣うた。私たちはほーっと息を吐いて、いい歌なんだなーと(どの歌だったかは忘れてしまったが)納得した。今の大学では教師が手取り足取り教えなくてはいけないらしいが、私達は勉強は自分でも出来ると思っていたから、このような教授の個性が古典に引き入れてくれるものとして有難かった。今になってもいい先生だったなと思える方だった。

誰彼と議論交わせし学び舎に藤の青葉のさやけき頃か 多香子
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2014/5/1

連作ということ  短歌

前にも一首詠と連作という事を書いたのだが、この頃また連作ひいては編集された作品集(歌集も含め)こそ歌の力を出し、作者の見えない姿も浮かび上がらせるのではないかと思うようになった。
趣味で始めた方々が新聞歌壇やNHK投稿などの一首詠をだしているうち、結社に入れば毎月十首以内とかの作品を提出するようになるのだが、私などのようにもう年も取って今さら新しく結社にはいるのもと言う人々がリアルの歌会でもウェブ上でも大抵一首を出していると、その一首に言い尽くさなくてはと言う気持ちにもなってくる。
しかし、歌物語のようなものとちがって、五首、十首とまとまってくると、季節や風景も盛られてきて強い思いをのべなくても言いたいことが伝わるような気がする。時間の経過があるような時はより効果的だろう。以下の歌は「変な花の名シリーズ」としてある掲示板に一首ずつ投稿したものを五首にして並べてみた。

「変な名の花」

イカリソウ間違いの名に傷ついて怒髪天を衝いているのか

花言葉さえも知らないシクラメン別名「ぶたのまんじゅう」だもの

ねぎぼうずに似たる紫はなくきのアガパンサスはアフリカ育ちよ

なにしおわぬただ紫にうつむきてクリスマスローズは春の花なり

名前さえ盗んだのかと疑われニセアカシアは冤罪に泣く

並べてみたらやはり私の力では大したことがなかったな、と臍をかんでいるが、はじめから題名をつけて五首十首よんでみると「われながら」と言うものが出来るから、歌を読む勢いがある時期だとおもったら詠んでみてほしい。ある人の曰く「歌の詠めない時期に結社などの締め切りで無理やり詠むのは苦しい、向こうから歌が来るのを待った方がいい。」尤もだけど、私など向こうから歌が来る体験は二三度しかなくて、そういうミューズの神に愛されない者でも歌は詠める(善しあしは別にして)のだから、短歌は面白い。
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