2016/7/28

歌集『夢の緒』澄田広枝  歌集

塔短歌会の澄田広枝さんが、私の『猫と暮らせば』のお返しに送って下さった歌集『夢の緒』(青磁社)は四年前に上梓された著者の第一歌集である。私が何やかやと忙しく、なかなかブログに載せることが出来ずにいたのだが、とても素敵な歌集なのだ。内容はご自身のいらした結社「氷原」と「塔」の十年くらいのお歌で、ご自身の病気とご両親の介護に戻った和歌山の実家での蜜柑作りのお歌なのだけれど、その重さを感じさせない明るさ、そして何より表紙、中扉を飾るお嬢さんの描いた「花」の絵のほわっとしたあたたかさが、この歌集を物語っている。

本を開けた時のわっと匂い立つ「思い」のようなものが現われて「ああ、やっぱり歌集っていいな」とつぶやいてしまった。十首をあげる。

ゆるやかに君とわれとの頭上ゆくきさらぎの夜の青き魚たち

かなしみがゆっくり沈んでゆくまでの君のかたへの空色の椅子

二十キロの蜜柑コンテナ積み上げてたくましき女はお嫌いですか

かたち成すもののふかしぎ爪切ればゆふべ小さき三日月こぼす

失ひし翼をわれに戻すやうにいつも背より抱きたる人

ぎしぎしの根を最後までぬくときの土のにほひとからっぽが好き

子がもどり荷物が戻りそののちをすこし疲れた猫もどりくる

夏真昼たったひとりで父は死に生きねばならぬ者らの夕餉

今われを通りぬけたるさびしさは風のかたちをした既視感(デジャ・ビュ)です

りんりんと雪のふるおともうあらず前のみ見よと言ふこゑのせり

後半は御両親の衰えと蜜柑作りの生活歌が多く、それも良いお歌がならんでいるのだが、私はやはり柔らかくどこかに恋を思わせるお歌が好きだ。僭越ながら私の歌作りに似通った部分を感じて、夢の中に漂いながらなお強く両足で立つ女性を感じるのだった。
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