2021/1/22

秀歌(96)吉川宏志「角川」11月号より  秀歌読みましょう

吉川宏志氏が「塔」の主宰(「塔」は一般社団法人になって、その代表ということか)になって五年以上になると思うと、月日の経つのは早いなあとびっくりする。永田さんから替わった頃は線の細い感じで大丈夫か(余計なお世話)とおもったけれど、沖縄問題への一人での取り組み、政治への静かな反抗、歌人としての芯のようなものが見えてきて、私はだんだんファンになって来つつある。
1969年生まれというと息子と年も近くて、自分の年をおもうから嫌だけど、宮崎の出身で高校教師の志垣澄幸氏に永田さんへの紹介状を貰って京大に入ったことはよく語られている。
去年のものだが「角川短歌」11月号にコロナ下の生活を書いている。巻頭28首から八首を引く

「眼状紋」

さるすべり白くこぼるる疫病(えやみ)にて帰らずなりぬ母の三回忌

常ならば盆に切られる溝萩のうすむらさきが畑に照りぬ

いつ死にていつ生まれしやわが部屋にときどき跳ねる蠅捕り蜘蛛は

百病みて一人死ぬとか ゆうぞらの青の部分を鳥は飛びゆく

やっと安倍政権が終わりましたねと亡き人に言うまだだよと雨

病王を責めてはならず いずこより触書(ふれがき)ありてしたがう我は

だまされてなぜにほほえむ 栗の樹に降りし秋雨また乾きゆく

秋の川に身は沿いゆくに虎杖(いたどり)の花が激しき白さに咲きぬ

眼状紋は蛾などの羽根にある目のような丸い模様のことで、たいていは可愛いというより不気味な姿を思わせる。吉川氏は京都在住なので、京の風景、自然の姿が映されるが、自分の思い立ち位置が静かに注入されている歌が好ましい。
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