2019/2/15

秀歌(83)鈴木加成太「角川一月号」より  秀歌読みましょう

鈴木加成太さんは、2015年の角川短歌賞を「革靴とスニーカー」で受賞しその時は阪大の四年生、就活に革靴を履いて日常から離れる感覚を描いていたと思うが、その後の若者の「生きにくさ」というテーマよりはまだ苦しくない時代であったのかもしれない。平成5年愛知県生まれと言うからまだ25,6と社会に出始めた若い歌人はその後「かりん」に入ったらしい。東京在住。

私は彼の受賞当時の美しい比喩が好きだった。学生らしい清廉な心象世界がどのように変わったのか「角川」の1月号「新春歌人大競詠」は若手は7首+「最近変わったこと」というエッセイつきで特集している。その中から5首を

「切り紙のもみじ」

仕送りに母が忍ばす切り紙のもみじに残るうすい下書き

子守唄のなかに微量の水銀はふくまれ雪のそら深みゆく

靴あとがさかなの骨の化石めく小雨のエントランスをゆけば

オリオンの腰帯ゆるきあのあたり宙に誰かの三連符あり

白熊にいちにち夜がある冬をふたんふたんと貨車は遠のく

エッセイで彼は就職して、学生時代とは違う季節を生きていると書いている。夏休みや文化祭が無くても生きていけるのだと。彼の歌は少し日常に近くなり、しかし美しい比喩をもって生き続けているのかと思った。「オリオンの腰帯ゆるき」という捉え方にほおっと吸い込まれる。
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2019/1/18

秀歌(82)穂村弘角川11月号20首より  秀歌読みましょう

今はプチ短歌ブームだと書いたことがあるが、昨年の歌集ラッシュや若い人の短歌を始めた人の多さは、ネット上で実感するものの古くからの結社などでは分らないのではないだろうか。ニューウェーブ30年と言われ、穂村以後と言われる人たちは着実に歩を進めているように見えるが、私は口語を使いながら特に熱中して読んだ事はなかった。穂村弘は若手の旗手であったがもう56才その歌はともかく、このごろは評論エッセイに才を開いているし、色々な選者として伯楽の力もあるようだ。「かばん」所属。

「リング・ワンダリング」

母さんの金の指輪よその肉に食い込みすぎていてこわかった

舶来の湯の華か・・・・、と誉めながらめをとじている名探偵は

洋梨の匂いの夜よ金歯あり原節子にも李香蘭にも

跡地跡地跡地をめぐる僕たちのよくわからない未来人の旅

双子だと思っていたら三つ子だという結末の推理小説

両腕にスチュワーデスを抱えたる力道山よ タラップは風

『"ふがいない自分"と生きる』という本をじっと見つめる入れ墨のひと

蜘蛛の巣に無数の小さな飛行機がきらきらきらきら揺れている朝

「うるかす」と呟きながらぎしぎしと母が鳴らしていた薄明かり

原節子や力道山などを使い古い人にも阿って、この所の歌は少しおとなしいような気がするが、難解と言うのとはちがう感覚の扱い方なのではないかと思っている。ライトバースやモダニズムとも違った「現代」を生きているのだろう。ある意味「平成」であり、もうすぐ来る次の時代にはどのようになって行くのか興味深いところ。
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2018/11/16

秀歌(81)田野陽「角川短歌」10首詠  秀歌読みましょう

田野陽さんと言う方はあまりなじみの方でなく、年鑑を見たら昭和6年生まれ、佐藤佐太郎の「歩道」で評論端の方の様だ。私はアララギぜんとしている歌ではないので、佐太郎系は殆ど読んだ事がなかった。この前「歌会」でお題「坂」に御茶ノ水の坂を詠もうと思ったら、このかたのお歌を見て、「本郷の坂」に取り替えた。それでここに紹介しようと思ったのだ。「角川」10月号から五首を

「駿河台界隈」

楽器店ならぶ喧噪身に浴みて熱風の吹く文坂あゆむ

明大の木かげの椅子に炎熱を避けて憩へる老人ふたり

缶詰になりて文士ら執筆をせしホテルなりてんぷらの味

雁木坂紅梅坂さらに甲賀坂梍角坂(さいかちざか)さへありて候

エレベーターエスカレーター未だなき遺物のやうな御茶ノ水駅

私の家の周りを坂を中心に歌を作っているので、私にはよく分る光景だ。では知らない人はとなった時に、知らなくてもそこはかとない既視感を相手に渡せたら歌は成功なのかしらなどと考えた。
五首目の駅の状態は長い事この通りだったが神田川沿いのホームは狭く、川を蓋して駅ビルにする案も実現しなかった。(それで皆喜んだのだが川を覆ってしまった飯田橋など暑くなってしまった)それがようやく橋や周りの地盤改善をして、駅コンコースを二階につくりエレベーター、エスカレーターを作ることになったのだ。地下鉄に比べるとそれほど長くない階段、古くからの店屋の地権等を考えるとそれほどの変化はこないだろうし、少しは昔の風情も残るものと思っている。
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