2019/12/20

秀歌(90)香川ヒサ「角川短歌」28首より  秀歌読みましょう

香川ヒサさんは何年か前に一度取り上げた歌人。昭和22年三月生まれだと私より二学年下の横浜生まれ、いまは大阪住まいのようだ。結社「好日」に入会後、同人誌「鱧と水仙」を創刊、元気のよいおばさんという印象で私の好きな歌人である。(現実にお会いしたことがないので勝手な印象)お歌を見ていると決して元気がよいばかりではないのだろうけれど、歯切れのいい都会的な歌を詠んできているように思う。「角川短歌」九月号巻頭から八首を引く。

「サンキストレモン」

あきづしま大和の国の敗れてもありし山河が黄砂に烟る

敗戦後七十四年の竹伸びて筍生活とふものありき

コンビニで買ひ物をする老人と子供等しく国税納めて

ビルとビルの間を歩き回りつついつも何かに遅れてゐたり

鳥の声ひびく朝(あした)を鳥のせぬ深呼吸する体操をする

九十六歳の母生きてゐる税金を国と横浜市へ納めつつ

香港に雨傘掲げた若者ら 西から雨雲寄せ来るらしも

帰還せむ来年末まで「はやぶさ2」わたしの心に点ることだま

この連作のころはまだ消費税引き上げの前であったろうが、やはり国民一人一人が少なくてもみな一律に納税する「消費税」というものに目を凝らしている。
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2019/9/20

秀歌(89)日高堯子「角川」28首より   秀歌読みましょう

日高堯子(たかこ)さんはあまり良く知らなかったけれど、昭和20年千葉県に生まれているので、私とは同学年で、早稲田の教育卒と言う事は、友人の同級生でもあるのだなと驚いたりした。早くに「かりん」に参加、馬場さんに師事して「かりん」の編集委員と聞くと、骨太の歌かしらと云う思いがあったが、この角川の歌などを見ると、独特の言葉選びとユーモアの隣の恐ろしさなど「うーん」と唸らされる上手さである。
多くの女性歌人が自分の親や義父母を介護し、それを詠える時期になった時、とても良い飛躍の時期を迎えるように思うのは私の身びいきだろうか。「角川短歌」五月号より八首を引く

「早春賦」

お母さんずつと好きでしたとささやけば薄目をひらき「そかしら?」といふ

かなしみはさびしさよりもあたたかし蕗の薹三つ野辺のはじまり

ことばから子音が消えて母音のみベッドより衰弱の母の呼ぶ声

縁の下のはくびしんも天井のねずみも今宵はしづかな病間

さしのべる腕が木のやうに硬くなり直になりしとき母亡くなりぬ

母といふやはらかきもの永遠に喪ひたりしのちのわれの生(よ)

母といふむなぐるしきもの永遠に喪ひたりし のち雨が降る

ふふと母のふくみわらひが流れゆく よみがへりこよ空も時間も

一首目の母の口癖「そかしら?」に含まれる可笑しみ、すましてそう言う母は認知の境を越えたのだろう。娘は悲しくない筈はない、でもどこかで距離を採らないと自分も崩壊する。私にはここまでの詠い方は出来なかった。でも時と言う物に助けられて人が抒情を取り戻す経験は私もした。
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2019/7/26

秀歌(88)三枝昂之「角川」28首より  秀歌読みましょう

三枝昂之、三枝広樹は兄弟で、兄の昂之さんは奥さんの今野寿美さんと「りとむ」を創刊主宰している。現日本歌人クラブ会長で日経歌壇選者だけど、私自身はどこか合わないような気がしていた。ただ山梨県の出身で「県立文学館」の館長であることが魅かれる部分なのだと思う。
県立文学館は同じ敷地に美術館があり、三億円のミレーの「種まく人」などの絵があって、何度も通った気持ちのいい場所である。その文学館の(親が山梨の出身のため、展示などもかなりされている)一葉の事を詠みこんでいる「角川短歌」7月号の巻頭28首が面白いので、七首ほど引いてみる。

「一葉」
 佐々木信綱が漱石から聞いた話
めおととなる話もあった 浮雲のようなえにしの漱石一葉

塩山は死人花の里あかしくらしと小中英之の歌に咲きたり

 一葉は今の東京内幸町に生まれた
甲斐の血をひきながら甲斐の山脈(やまなみ)と会いしことなきひと世を思う

「今に、今に」は今も暮らしの声にして江戸東京の空に吸われる

文芸という執着はそれとして今日だけの夏が丘に来ている

 再び懸垂幕の樋口一葉
文学の文学館の行く末をたぶんあやぶみながら見下ろす

樋口一葉本名は「なつ」梅の木がどの枝もどの枝も実を太らせる

一葉の井戸と言うのが小石川の「オリンピック」(量販店)の傍に有って、この歌に描かれる一葉の生涯なども本に読んだりしているので、山梨の想い出と共に、心魅かれるところがある。六首目は今の文学館に一葉の垂れ幕が下がっていて、「文学」の行く末を心配していると言うのは作者の気持ちのあらわれであろう。私は山梨県民にあの広大で気持ちの良い美術館、文学館を守って行く気概はあると信じているけど。
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