2021/5/14

秀歌(98)大森静佳「角川一月号」より  秀歌読みましょう

大森静佳さんは今年度のNHK短歌の選者になり、若手の中でも元気よく走っているイメージがあったけれど、「Bootleg」の土岐友浩さんと結婚していたのは知らなかった。岡山生まれ京大短歌から「塔」短歌会の31才、京都から大阪在住。
毎日歌壇の投稿から「塔」にはいったようなので、河野裕子の引きがあったのだろうか。去年角川から出した「河野裕子論」の評判もよい。今回は「角川短歌」一月号の競演七首から四首を引く。

「滝へ」

雲よいま淡くわたしを横切るなつま先立ちをしてやりすごす

ふとぶとと水を束ねて曳き落とす秋の滝、その青い握力

読み終えて黒い表紙にあてる手のてのひらは読む夜のつづきを

泣くたびに骨格くずれゆく心地くずれてわれは雲になりたし


名前の「静佳」より骨太な歌を詠むし、この連作も京都にいての滝の風景と思うと納得がいく。服部真理子の「水仙論争」のときに服部さんの側から現代的な解釈を展開、論理的な人のように思われる。リズミカルな流れの中に「握力」「骨格」などの熟語(漢語)を設置することのブレーキ的な表現も健在。
選歌の時は少し変わった歌をていねいに読み込むのではないかと今回のN短でも新たな期待をしている。
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2021/2/26

秀歌(97)蒔田さくら子「角川」一月号より  秀歌読みましょう

この「秀歌読みましょう」の記事の初めの方から蒔田さくら子さんのお歌を引かせてもらって、何回か書いてきました。今はもう新聞選者も「短歌人」の委員も引かれて、今年93を前にしてなお背筋のすっと通った歌を詠んでいられる歌人です。
ご主人が亡くなったとき「寂しい、寂しい」と言っていたのがじきに立ち直って、写真で拝見する限り以前と変わりないお姿なのは嬉しいことです。角川の一月号は毎年「新春歌人大特集」なのですがなかでも蒔田さんのお歌が私は好きです。巻頭12首から六首を引きます。

「歩一歩」

天翔けるつばさは望まず残りたる時を歩一歩かく踏みゆかむ

「椿姫」の前奏曲が好きといひし可愛少男(えおとこ)ありき七十年昔

あんな時代もあつたねなどと語りあふ時代をともにせし人らなし

餌くるる人かへりしとすずめどち噂をするか三羽きて待つ

窓ごしにゐるかゐないかのぞきゆく目ありすずめのちさく黒き目

後ろ二首はご自身の入院後家に帰ってのスズメたちの様子で、間にベランダを掃く歌が出て来るので、マンション暮らしと推察される。私も今は雀に餌をやっているので楽しい歌です。
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2021/1/22

秀歌(96)吉川宏志「角川」11月号より  秀歌読みましょう

吉川宏志氏が「塔」の主宰(「塔」は一般社団法人になって、その代表ということか)になって五年以上になると思うと、月日の経つのは早いなあとびっくりする。永田さんから替わった頃は線の細い感じで大丈夫か(余計なお世話)とおもったけれど、沖縄問題への一人での取り組み、政治への静かな反抗、歌人としての芯のようなものが見えてきて、私はだんだんファンになって来つつある。
1969年生まれというと息子と年も近くて、自分の年をおもうから嫌だけど、宮崎の出身で高校教師の志垣澄幸氏に永田さんへの紹介状を貰って京大に入ったことはよく語られている。
去年のものだが「角川短歌」11月号にコロナ下の生活を書いている。巻頭28首から八首を引く

「眼状紋」

さるすべり白くこぼるる疫病(えやみ)にて帰らずなりぬ母の三回忌

常ならば盆に切られる溝萩のうすむらさきが畑に照りぬ

いつ死にていつ生まれしやわが部屋にときどき跳ねる蠅捕り蜘蛛は

百病みて一人死ぬとか ゆうぞらの青の部分を鳥は飛びゆく

やっと安倍政権が終わりましたねと亡き人に言うまだだよと雨

病王を責めてはならず いずこより触書(ふれがき)ありてしたがう我は

だまされてなぜにほほえむ 栗の樹に降りし秋雨また乾きゆく

秋の川に身は沿いゆくに虎杖(いたどり)の花が激しき白さに咲きぬ

眼状紋は蛾などの羽根にある目のような丸い模様のことで、たいていは可愛いというより不気味な姿を思わせる。吉川氏は京都在住なので、京の風景、自然の姿が映されるが、自分の思い立ち位置が静かに注入されている歌が好ましい。
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