2011/6/14

衝撃。  読書

 今日は私が当番の読書会で、課題本は高野秀行/著『異国トーキョー漂流記』。とても軽い読みやすい(でも実は重い片鱗がある)本なので、はたしてみなさんの読後感想は?とヒヤヒヤものだったのだけれど、なかなかな盛り上がり方だったので、一安心だった。

 読書会で「村上春樹さんが原発について素晴らしい発言をされている」という話を聞いてきたので、夜中になってPCに向き合える時間ができるやいなや、検索して読んだ。「6月9日のスペインのカタルーニャ国際賞授賞式で配布された作家村上春樹さんの受賞スピーチの原稿全文」というものだ。

 これを読み、個人的にえらく衝撃をうけてしまって、しばらくは茫然自失だった。私が内心忸怩たる思いを抱いていた原発事故についての「個人的反省」について、非常に的確に指摘されていた文章だったから。あまりにもシンクロしている部分については、あたまがクラクラしそうだった。ちなみに「個人的反省」とは、福島で原発が事故を起こす以前に、一体何をしただろうか(あるいはしなかっただろうか)、という反省である。

 小学生の夏休みの宿題に、読書感想文というのがある。私は小学生の頃、課題図書の読書感想文要員だった。これは、抜きん出ていたからではなく、及第点をキープできるありきたりの作文が書けたからにすぎない。

 たまたま『碑(いしぶみ)』という本が課題図書だったときがあって、「なぜこんなこわい本を読まなければいけないんや!」というくらいショックだった。原爆の落ちた広島の直後を描写したノンフィクションだったのだ。それ以来、
広島にある原爆死没者慰霊碑にある言葉、
「安らかに眠って下さい。過ちは繰り返しませんから」
という言葉を子どもながら胸に刻み、原爆死没者に深く誓った。まだ10歳を少し過ぎたくらいの年頃の話だ。

 そして20歳前後くらいの頃に、もう一度この言葉を、原爆死没者の皆さんにダイレクトに誓い直したことがある。これは「不思議な体験」かもしれない部類のことなので(単に寝ぼけていただけかも?)、深くは触れないが、私にとっては大切な事件だった。

 図書館司書としては、チェルノブイリや東海臨界事故などもあったため、それなりに原発については本を集めたり、危険をアピールしたり、原発にアンテナを張っているマイナー雑誌を購入したりもしていたが、図書はおろか新聞すら予算がつかず購入できないという事態になり、この時点で私が仕事上できたことは中断した。

 それから随分経った今春に、突然「安らかに眠って」などいられない事態が起こってしまった。「過ち」を、なんと「自分たち日本人の」手で繰り返してしまったからだ。これは原爆で死んで行った人たちへの、手ひどい裏切りではないか。もう本当に忸怩たる思いだった。

 この感覚を共有してくださった、そして世界中のみなさんに丁寧な解説と呼びかけをしてくださった村上春樹さんに、心からありがとうと申し上げたい。私の一方的かつ個人的な思いだけなんだけどね。   
1

2011/6/12

バラの名前ふたたび  読書

 図書館で借りて来た『Rose Book バラ図鑑625品種(『花時間』特別編集)/角川マガジンズ・発行)で、カラー別に並んだバラのポートレイト(?)写真を見て、あれ?と思った。

 名前のうしろに「+」のつくバラがあるのだ。「キングスプライド+」「プリマドンナ+」「ドルチェヴィータ+」みたいにね。

 名前の最後に「+」が付くバラは、オランダの育種会社、LEX社の作出した品種名につけられているそうだ。LEX社は世界の一流ブランドになるべく、世界中のひとたちに覚えやすいマークをつけたそうだ。なるほど「+」なら万国共通だもんね。なかなか野心的な会社だ。

 ところがさらに、感嘆符!のつくバラの品種名がある。「クールウォーター!」(!つきなんて、クールじゃないじゃん)「ガーデンスプリング!」「パリ!」「ロゼンダ!」「ピレネー!」「ユキミ!」「アンネマリー!」「キャメル!」「トリックス!」「イナ!」などなど、感嘆符の付く品種名はピートスクルールスホールディング社の作出品種だそう。

 「+」はクールだけど、「!」は暑苦しいかも。でも感嘆符付きのバラ自体はかなりイイ線いっててキレイ。

 ほかにも、「ステンレススチール」っていう品名があり、どんだけゴツいんや?とビジュアルをみたら、薄紫のクールビューティーだったし、かわいらしい白薔薇なんだけど「M-白雪姫」という名前は、ややインビな匂いがしたりして。

 有名人に捧げたバラというのも「へぇ」度が高い。王族や皇族の方々は、いうまでもないので割愛するが、芸能人に捧げたバラもいくつか発見した。
 大地真央に捧げたそのまんまのネーミング「大地真央」。渡辺美里に捧げられた「シャンテロゼミサト」。そして黒柳徹子に捧げられた「トットちゃん」。

 飲み物の名前も、オレンジ・茶系色のバラには結構あった。「ホットチョコレート」「ショコラ」「エスプレッソ」「カフェラテ」「モカ」「シャンパン」「ブラックティー」。喫茶とバラは相性がいいのかも。

 開花する時間経過とともに色が変化する「アブラカダブラ」とか、やはり色変わりしてきれいだけど退廃的な気分を漂わす「ハロウィン」だとか、日本的情緒あふれるパープルの「しのぶれど」とか、名は体を表すという一群れだってある。

 ミックスカラーの「アンリ・マチス」とか「セザンヌ」は、さすが画家の名前を冠するだけあって、素晴らしい。「アンリ・マチス」は濃いピンクの絞りで、「セザンヌ」は、クリーム色の花びらのふちに淡い紅のぼかしが入る。相当にロマンチック度が高くて、すっかり私のお気に入りだ。

 バラは奥が深い。名前だけでも、こんなにわくわくするんだから、バラマニアがバラにぞっこんになるのは、むべなるかなである。
0

2011/5/20

宮田さんのホームラン!  読書

 4月から「週刊ブックレビュー」(BSプレミアム)が土日の早朝OR深夜枠に移ってしまい、私には視聴が難しくなった。睡魔には勝てない。しくしく。

 しかし早朝でも深夜でもない時間枠で、ラストチャンスの再放送があるのだ。金曜の正午である。自由人以外には無理な時間帯だが、堅気の専業主婦には可能な時間帯だ。

 ときどき「ブックレビュー」のHPを観て、金曜のスケジュールを決める。今日はぜひ観なきゃ、スタンバイしとかないと。

 とはいえ、なぜ是非みなければいけなかったのか、当日にはすっかり忘れている。ときには2時頃になって「あっ!?」と思い出す事すらあるが、ときすでに遅し。

 本日に関しては、なぜ観るんだったっけ?と訝りつつも、「ブックレビュー視聴の予定あり」ということは、しっかりインプットされていた。おかげで、HPチェック時の「わーい、宮田珠己さんが出演だー!!」という、ミーハーなよろこびをぬかよろこびに変えずに済んだ。すこし遅刻してしまったが、ありがたいことに宮田さんは3番目にメインをはってらしたので、義理(!?)が果たせた。

 今日彼が紹介した本は、矢島新/著「日本の素朴絵」(ピエブックス)。もう、表紙をひとめ見ただけで、「これはっ!!」と身を乗り出してしまうくらいツボにはまってしまった。

 地獄絵図だけど、えんまさんをはじめ地獄の王様たちの表情は、どこかのほほんとしており、まるでテーマパークのように楽しげ。
 別の神社仏閣の絵では、遠近法めちゃくちゃで、ど真ん中に描かれた橋はなんだか子どもの絵のように奇妙だ。
 極めつけは花見のおっさんたちを描く墨絵。たいこ(もしくはちゃわん?)をたたくおっさんのちかくには「たいこ」と記され、酔っぱらって踊るおっさんの上には「おどり」と記入されている。極めつけはよくわからない太線をつけた人影があり、これには「かきそんじ」と(笑)

 じつは素朴絵テーマで、2008年から2009年にかけて東京の松濤美術館にて『素朴美の系譜−江戸から大正・昭和へ』というのが開催されたらしいのだ。わー! それ、見たかったなー!! 遠過ぎるけど。(もちろん遅過ぎるけど)

 番組内でも、自分のお気に入りの絵(ページ)を競い合って紹介したりして、大盛り上がり。ブックレビューのこういう盛り上がり方、つまり共感と笑いの輪が広がって行く、体温高めの空気が大好きだ。ホームランを決めた宮田さんへの好感度が、ますますアップする。今回初めてテレビで拝見したけれど、宮田さんのルックスもね。

 
0

2011/4/30

「テルマエ・ロマエ」、グレードアップ!  読書

 1週間前(発売日!)に買ったことは買ったのだけど、なかなか一気読みができずにいた『テルマエ・ロマエ』の3巻。やっと読み終えました。

 いや〜〜、風呂ネタだけでどこまで続くのか?と、実は不安だったのだけど、見事に裏切られましたね。これは、何度も読み返したくらい面白かった!!(だから1週間もかかったのだけれど)
 作者の「温泉/風呂愛」が、見事に結晶したというか(笑) ことに温泉街への深い理解と惜しみなく注がれる愛情が、お見事! みうらじゅん(ファン)とかぶる感性(ゆるゆるのお土産品とか)も、主人公ルシウスの一途で真面目さゆえのオモシロ過ぎる呟きとリアクションも素敵です(笑)

 一大エンターテイメントである温泉街のあれこれに、いちいち感動するルシウスも楽しかったが、山奥で炭焼きの老人が入る桶風呂を焚きながら、老人が歌う「与作」に感銘し、「へいへいほぉぉ〜」の部分をリフレインして、ルシウスが「HEI HEI HOUU」と歌うところがものすごくいい。時代と国を越えた心の交流には、風呂と歌さえあればいい!! もう言葉なんて、このさい不要だ。 爆笑しながらうれしくなってしまう名場面である。

 いいお風呂や温泉があれば、みんなが残らず幸せになり世界が平和になる。そんな湯〜トピアを描く時空を超えた、実は意外や意外、スケールのでかい漫画なのでした。

 漫画の合間に挟まれる作者のエッセイというか作品解題も、当然、作者の「温泉/風呂愛」に溢れている。温泉街についての文章などは素晴らしく、そのアツい語りにおもわず引きずり込まれてしまった。
 それから、多分作品を描くにあたって、多くの文献調査やフィールドワークに時間を割かれた事と思うのだが、作品のバックにあるあれこれを書いてくださっているので、よりマンガへの理解が深まる。

 それから3巻のオビには、衝撃のお知らせが! なんと阿部寛の主演で映画化されるというのだ! ということは、阿部寛=ルシウス(古代ローマ人)!? ・・・悪くないかも。公開されるのは2012年だそうで、しばしお待ちを、というところか。

 ところで「テルマエ・ロマエ」の公式ウェブサイトがあるので、リンクを貼っておきます。興味のある方はご覧下さい。(青字下線部分)

 そこで知った作者、ヤマザキマリさんの驚愕の過去↓

ルシウスのモデルとなったイタリア人のご主人と、お子さんの3人暮らし。
17歳でひとりフェレンツェで絵の勉強のため海外生活を送り、その後貧困生活ゆえに賞金目当てでマンガを描き始め、現在に至る。


 17歳っていったら、ほぼKちゃんと同じ年じゃないか! その歳でひとりで絵の勉強をしに海外へ! しかも英語圏じゃないし! なんたるツワモノ! 

 今日Kちゃんが「ウチは大学生になったらバイトして、ダージリン・ヒマラヤ鉄道に乗るのと、マチュピチュに行くのを企んでるねん!」と言っているのを「ツワモノやな・・・」と内心思っていたが、ヤマザキマリさんには完敗だ。あの画力は普通の漫画家さんではないと思っていたけど、なるほどね。

 追記:この記事を書き終えてから、高野秀行さんのブログをチェックしたら。
なんと!! 『テルマエ・ロマエ』について、ほぼ私と同様の記事がアップされていて、うわああ〜高野さんとシンクロ〜♡♡♡と、ひとり真夜中に盛り上がっていたのでありました。
0

2011/4/20

やみあがりにつき  読書

 今日は寒いのと、病み上がりなのと、買い物も病院も行かない引きこもりデーのため、溜まりに溜まっていた新聞を気合いを入れて、よーいどん!で読み続ける。

 3月31日〜4月9日までの日経新聞に目を通し、さすがに目が疲労する。でも日経はたまにディープな視点の記事(経済ではなく文化欄)があったりする独特な新聞なので、やっぱり面白い。

 その前に勝田文さんのコミック『ちくたくぼんぼん』1、2巻(集英社/クイーンズコミックス/現在も『コーラス』にて連載中で、まだ完結していません)を読破。昭和初期が時代設定で、ミステリアスな時計屋さん(そのまえは学生さん)とのラブコメディ。出てくるキャラがどれも素敵で可笑しくて愛らしい。
 ときどき爆笑しつつ、微笑ましいキュートなセンスに共感し、勝田文さんが私のツボにはまりまくることを再確認した。とともに、ウチに最近やってきた柱時計が、ますます好きになったりして。もっとも、ウチの時計は昭和中期くらいだけどね。

 読まなきゃいけない本も数冊あるので(図書館から借りている上、読書会の課題本も/汗)、新聞やコミックにかまけてる場合じゃないけど、こういう日もあるのよ。
0

2011/4/12

久々の居場所  読書

 午前中は、朝家事を大急ぎで片付けた後、ほぼ半年ぶりに読書会参加。

 ほとんど幽霊会員と化していたこの3年間だったけれど、やっと戻ってこれました!というホームカミングな気分がうれしい。同様に迎えてくださった懐かしい会員の方々のあたたかさに、涙がでそうなくらいうれしかった。

 なかなか1冊を1ヶ月で読破することは難しい状況だけど、とりあえずは参加することに意義がある、ということにして。この日の課題本は佐野洋子さん、というのも、うれしい偶然。

 午後は訪問リハビリがあったり、学校から帰宅したKちゃんを耳鼻科に送迎する必要があったりして、ぎゅうぎゅうの一日だった。失業者で貧乏人のくせして、金目の尾頭付きお刺身を購入したのは、がん治療を放棄したかわりに、がん治療にかかる金額でジャガーを買っちまった佐野洋子さんの魂が、一瞬乗り移ったのかもしれない(笑) いや、でも見た目よりだんぜん安かったんですったら!

クリックすると元のサイズで表示します
1

2011/4/11

ついにストーカー?  読書

 あんまり好きになると「おっかけ」をし、「まちぶせ」をしてしまうことがある。

 現在私は、高野秀行さんのブログチェックは欠かさない。しかも読む度に面白くてためになるため、プラスアルファで高野ツィッターも追いかけている。もう完全なストーカーです。

 そんなストーカー行為の甲斐あって(!?)、本日は貴重な記事を発見した↓

 おおっ、これは…!! 原発の無謀さを訴えた山岸涼子「パエトーン」が無料で読めます。http://usio.feliseed.net/paetone/


 「パエトーン」は遥か昔に読んだ記憶はあるのだけど、内容はほぼ覚えていない。こんなに衝撃的な内容なのに。たぶんそれより前に、あちこちで原発知識は仕入れていたので、ここで知ったのが最初じゃなかったからかも。

 短編マンガなので、どこかの作品集にこっそり入っているのでは、と探してみたら山岸先生の『ブルーロージズ』という短編集に収録されている事を知り、図書館でリクエストをかけました。そう、予約待ちだったのです! 「パエトーン」、どうも話題になっているらしい。20年以上前のマンガで、しかもチェルノブイリから端を発しているのに、今でもぜんぜん古くないし、通用する。

 原発がどういうものか嫌というほどわかるので、知らなかった人は驚愕するだろうな。詳細でわかりやすい説明と説得力のあるアピールは、さすが山岸先生である。「パエトーン」、是非閲覧ください。

 ところでこのツイッター、もちろん高野さんも面白いが、彼の周囲のひとたちも、負けず劣らず面白いコメントをガシガシ入れている。類は友を呼ぶというのは、こういうことなのだな。

 &これからも私のストーカー生活は続きそう。
1

2011/3/6

うれしい便り  読書

 先週、福音館書店のメールマガジン「あのねメール通信」が届いた。そのコンテンツの中に「『菜の子先生の校外パトロール』の作者、富安陽子さんのエッセイ」というのがあった。

 一瞬、目を疑う。えっ!?『菜の子先生』のシリーズって、学期別で3学期分で終わりじゃなかったっけ? ということは、もしかしたら、番外編が出たの!? 

 やっほう〜!! クールでカッコ良くて、不思議なスーパーウーマン、菜の子先生に、またお会いできるんだ♪♪

 菜の子先生をご存知ない方のために、『菜の子先生の校外パトロール』は「内容紹介」データより引用↓

 ご存じ、まん丸メガネの不思議先生が、こんどは校外活動の現場に登場! 春は自然学習のキャンプで、妖怪に誘われて奇妙な世界に迷いこんだ仲良し二人組が大ピンチ。夏は臨海学校の男の子が、なんと難破した宝船の七福神からSOSを受けてボーゼン。秋は修学旅行先の京都で、自分の影に逃げられてしまった女の子が途方にくれ……。ここはもうどうしたって、菜の子先生の出番でしょう!ここまでのシリーズ3作で、一学期・二学期・三学期と学校の四季に寄り添いながら、ミラクルパワーで子どもたちを励まし、いくつもの冒険をくぐってきた菜の子先生が、腕章姿もりりしく校外パトロールに大車輪の活躍をする痛快なお話集です。ありふれた日常からついと踏みこんでしまうワンダー富安ワールドで、思いっきり心を解き放ってください。またとないコンビを組むYUJIの挿絵が今回も絶好調! 物語と絵の絶妙タッグで、「ありえない」けど「あってほしい」世界がまざまざと目の前に展開します。

 福音館HPでは3月25日、Amazonでは3月16日が発売予定になっているので、まだ予約受付段階なんだけど、とにかく、また新たな菜の子先生の物語が読めるなんて、予期していなかっただけに、よけいうれしい。

 児童書だからってあなどるなかれ。大人だって、いや、大人だからこそ、菜の子先生に教えられる事がいっぱいなのだ。大人にとっても菜の子先生は、永遠に憧れのオトナなのである。

 『あのねメール通信』Vol.112より引用↓

 山に、海に、町に、菜の子先生現る!!  富安陽子

 科学者風の白衣に丸眼鏡をかけた山田菜の子先生が、私の心の中にひょっこりやってきたのはいつだったかな、と思います。教室の机の中に忘れてきた宿題のプリントを取りにいった、あの心細い春の夕暮れだったでしょうか。それとも、いつもかけっこでビリになるのが恥ずかしかった運動会の前の憂鬱な夜のことだったでしょうか。
 菜の子先生は私の心の中に現れたとたん、フフンと鼻を鳴らして、いいました。
「忘れ物をするなんて、まったくたるんでいますね。でも、まあ、忘れたその日に取りにきたのは立派でした。私の知っている男の子は計算ドリルを3日も学校に忘れっぱなしにしていたおかげで、とんでもない目にあったんですよ。その子は3日目の放課後にやっとドリルを取りにきたんですけれどね、逢魔ヶ時の小学校では、摩訶不思議なことが起こっていて、あやうく教室にたどりつけないところだったんです」
 「おや? ずいぶん浮かない顔ですね。え? 明日の運動会がいやなんですか? かけっこでビリになるから?……富安さん。それぐらいのピンチにひるんではいけませんよ。私はもっと大ピンチの運動会を知っています。その運動会にはなんと、魔物がこっそり紛れこんでいたんです。そいつの魔力のせいで、運動会はもうちょっとでメチャクチャになるところでした」
 菜の子先生はいつも、ちょっぴり落ち込んでいる私の心の中に現れて、ワクワクするようなお話をすると、またどこへともなく消えていってしまいました。
「運がよければ、またお会いしましょう」という言葉を残して……。私はやがて、そのお話を思い出して物語を書きました。それが菜の子先生の“学校ふしぎ案内”シリーズです。このシリーズは現在、1巻から3巻まで出ていて、その中にはもちろん“計算ドリルを忘れた男の子”のお話や、“大ピンチの運動会”のお話ものっています。
 この、1、2、3巻で、ちょうど1、2、3学期のお話が全部そろったのですが、なんだかまだ書き忘れていることがある気がして、考えていたら突然思い出しました。そう、そう! 私は菜の子先生から聞いた、あのとっておきの3つのお話をまだ書いていませんでしたっけ。――3つのお話というのは、子どもたちが出かけていった、自然学習の“山”と、臨海学校の“海”と、修学旅行の京都の“町”が舞台の物語です。山で、海で、町で、何が起こるかは読んでのお楽しみ!
 さて、菜の子先生の“学校ふしぎ案内”シリーズは全4巻をもって完結しますが、菜の子先生とは、また、きっとどこかで会える気がします。なぜって、近頃またフラリと私の心の中に現れた菜の子先生がいったんです。
 「富安さん。お久しぶり。ずいぶん大きくなりましたね。あなたが気に入るだろうと思って、今日は新しい土産話をどっさりもってきましたよ。さあ、どれからお話ししましょうか」

0

2011/1/29

『テルマエ・ロマエ』を買う。  読書

 ずっと前に新聞記事だったかでマンガ評を読んで、「このマンガ、ゼッタイ、面白いはず!!」とエキサイトしていたのに、その後すっかり忘れてしまっていた。きっと年齢に正比例してカタカナ語は忘却しやすいという法則にのっとっていたのだ。だってタイトルが『テルマエ・ロマエ』、作者「ヤマザキマリ」。こりゃ無理だ。

 ところが、たまたま買い物のついでに立ち寄った本屋さんで、1冊だけ「表紙見せ」にして立てかけてあった『テルマエ・ロマエ』をみて、記憶喪失から蘇ったかのように、一気に思い出す。これは、なにがなんでも買わなくちゃ!!

 680円といえど、なけなしの財布の中身と図書カードの残金を使って購入。第1話を読んだ時点で、そのようなリスクと犠牲を払ってもなお、大正解だったのを思い知る。面白いぞ、面白すぎるぞ、ルシウス(主人公の名前)!! 

 古代ローマの設計技師が、道沿いの浴場から現代日本の銭湯へと行き来するのだ。タイムスリップもの(ただし風呂限定)で国境さえ越えている。おまけにギャグマンガ! とてもギャグマンガとは思えないようなシリアスな絵柄なのにね。王道なのに斬新という不思議なテイストだ。

 表紙もなかなかにシュールだが、(たぶん)このまんまの内容なんだよねー。ちゃんと内容を説明している表紙なのもスゴいことかも。
クリックすると元のサイズで表示しますクリックすると元のサイズで表示します

 すでにご存知の方も多いでしょうが、これ、「マンガ大賞2010」と「第14回手塚治虫文化賞/短編賞」をW受賞しているのだ。さもありなん。(現在2巻まで既刊。今春3巻発売予定)

 最近は読む本、読むマンガ、当たるなあ。去年とはえらい違いだ。やっぱり精神的なベクトルの持ち方は大事なんだなぁと痛感。

 ということで、本日はこれまで。読後の感想はいずれまた。
2

2011/1/26

『皿と紙ひこうき』  読書

 お仕事でYA向けのレビューを書かなければならず、10日ほど前、YA棚を物色していたとき、たまたま目にした石井睦美さんの『皿と紙ひこうき』を手にして読んでみた。

 石井睦美さんは『卵と小麦粉それからマドレーヌ』以来の2冊目だ。『卵』を読んだのは5年以上前だった(かもしれない)。そんなに間があいたのは、あまりにも『卵』が素晴らしかったので、その次の作品を読む気にならなかったのだ。登場人物たちのすべてのキャラが立っていて、しかもその会話がいちいちナイスすぎる。言葉が深い、というか。無駄な文章がない、というか。

 それはそのまま『皿と紙ひこうき』にも当てはまる。相変わらず会話が実に見事で、奥が深い。しかも行間が濃い。文章がきらきらと光っている。

 「一子口伝」とか「先祖代々」という古めかしい言葉が出るような陶芸集落の山間で生まれ育った他は、ごく普通の少女、由香の物語。この春から高校生になり、麓の町の高校に通うようになった由香。彼女が過ごす春から夏休みの終わりまでの、部活や友達や家族のあれこれ、そして学校で起こった事件を淡々と描いた、さわやかで読みやすい物語なのだ。ところがあっさりしているのに、味わいが深い。読了後も後を引きまくって、余韻が収まらない。だからこのフックの多すぎる物語の謎を解くために、もう一度読み直した。

 読み直すと、とても緻密な糸を張り巡らされた小説なのがわかった。しかも意外にビター&ダーク。
 まず「恐竜」という比喩や、ご先祖の写真がいくつもある仏間などで、「時間の重み」が描かれる。悠久たる時間に比べ、ひとの命は限りがあり、短くはかない。そんな時間のつらなりを宿す集落や家に、耐えられない人間だっている。存分に自分の人生を、自分に正直に歩もうとすれば、多かれ少なかれ愛する人(たち)を傷つけてしまわざるを得ない。そして誰の心にも深い闇が潜んでいる。おまけに人と人とが理解し合うのは難しい。

 そんな人生の苦さや痛みを、じつに淡々と、でも深々とリリカルに描くことができる石井さんには脱帽だ。よく読めばずっしり重く苦いのに、ふわりと透明感のある世界観。物語の感触はリアルなのに、実にリリカルできもちいい文章なのだ。

 いろんなバリエーションで描かれるカップルの絆も素敵。

 由香の祖父母の「まもなくどちらかにやってくる死」という別れを、痛いほど切なく思うがゆえに、いたわりあい、甘え合う関係。
 結婚したら苦労をかけるのがわかっていたから、心ならずも別れを決意していた父。しかし父が自分の全てだと信じた母は、身ひとつで父を追いかけた。
 来年は帰路に立たなければならない3年生の先輩は、生涯を通しての恋心と引き換えに、恋人と別れることを決める。
 友達の絵里は、中学からの片思いで眺めるだけの恋を断ち切り、超イケメン転校生に一瞬の熱をあげ、「運命の出会い」で勧誘されたクラブの先輩とラブラブになる。絵里はミーハーで、わりとごく普通の少女なのだけれど、そんな彼女が口にするラスト近くの言葉は、考え深い由香をして「すごい!」といわしめるのだ。
 そして由香自身の、まだ恋という自覚の無い思いは、静かで晴れやかで清々しい。

 さまざまなカップルのさまざまな絆に思いを馳せて、久々に切なく、でも幸せな気分を味わった。

 とにかくも読みどころがありすぎて、幾通りにも読む事ができそう。だから読者の心のフックのどれかには必ず引っかかってくれる、素敵な物語なのです。超、おすすめ。


 
2

2011/1/5

初笑い/初読書  読書

 いまさらながら元旦の朝の話である。

 実は『聖☆おにいさん』第6巻を昨年発売と同時に購入し、ちょびっとずつ読んでいた。そしてあんなに面白かったにも関わらず、なんと読了するのに年を越してしまったのである! いつもクレームがくるんじゃないかとヒヤヒヤするくらい、あんなに薄いマンガなのに、である。これはもう「かたつむり大作戦」といっていい。KBS京都(京都のローカルテレビ局)に表彰してもらえそうだ。(意味が違うって!しかもローカルすぎる話)

 6巻の最終話はハロウィンを過ごすイエスとブッダ、その周辺の!?ひとびと??の話で、3回読み直したくらい面白かった。おもわずKちゃんに読み聞かせたくらいだ。Kちゃんにとっては、お正月からずいぶんなありがた迷惑な話である。

 堕天使ルシファーが意外に親分肌の「いいヤツ」で、ある意味イエスよりまっとうだったりするのとか、ハロウィンを仕切るジャック・オ・ランタンが、実は気弱なにーちゃんだったりするのが可笑しい。地獄や魔界の住人たちより、天界のひとたちの方が、よほどラディカルでエキセントリックなのだ。

 極めつけは最後のページで大御所が登場するのだが、これがもう作者のサービス精神全開で! あの1ページで笑いのツボが押されまくりで、結局この話を何回も読み直すハメに! まだ読んでいない方のために、ネタバレできないのが残念なんだけど、読了された方とは、ぜひ語り合いたいところである。

 ネタバレ感があまりないけど好きなツボをひとつ紹介すると、イエスのTシャツに「万聖節(=ハロウィン)」とあるのはノーマルとして、ブッダのTシャツに「トリックor布施」とあるのに笑ってナットク。

 以上が、私の元日の起き抜けの初読書、兼、初笑いだったのでした。
0

2010/12/25

イエスさまのバースデイ  読書

 クリスマス・イブに発売された『聖☆おにいさん』6巻を、日付が変わった25日になりたての時間に少し読んでみた。イエスのバースデイですからね。

 夜更かしを重ねつつ、年賀状原稿を完成させた自分へのご褒美だ。睡魔との戦いのご褒美なので、2話読破までだったけどね。(その後、眠りの海に沈没)

 手塚作品へのオマージュあり、天才ギタリストへのオマージュありで、そのオチにはおもわず「おおお〜、そうきたか〜!」と(笑) それにしてもロッカーの弁財天さま、カッコ良すぎです、そしてさすが「は虫類」の化身だけあって、恐るべきスカウト術! それからコマはちいさいけど、ユダの投げキッスも可愛かった(笑) いや〜、後半も楽しみだ〜。

 ささやかな法事も終了したので、心も晴れ晴れ。これでやっと、お正月準備の戦闘態勢に突入できる。

 ところで期待していた法事の仕出しのお料理は、期待以上の美味しさ。煮物も、てんぷらも、酢みそあえも、お刺身も、フルーツも、すべて美味しくて、食べ物については(いや全般か!?)辛口批評をするKちゃんをして「おいしかった」といわしめたほど。他の人より、ひとあしもふたあしも遅れて席についた私は、一心不乱に夢中でいただきましたよ。守山市の『北陸』、やりますね〜!!
0

2010/12/17

超小規模礼拝所  読書

 『べてるの家の恋愛大研究』(浦賀べてるの家 大月書店)に「安心・安全なケンカの仕方の研究」という文章を寄せている山本賀代さんが、超小規模礼拝所について書かれている個所がある。超小規模礼拝所とは、つまり彼女にとっては、トイレのことなのである。

 念のために、おさらいをしておく。ウィキベディアによれば、「べてるの家」の名前の由来は以下のようなものである。

「べてる(Bethel)」は旧約聖書・創世記に出てくる地名で、「神の家」という意味。 「べてる」は、ヘブライ聖書創世記でヤコブが天に達する階段の幻を見て神の祝福を受けた土地に命名した「ベテル」(bethel)、すなわち「神(エル)の家(ベート)」に由来している部分がある。

ドイツに古くから障害を持った人々が受け入れられ、暮らしている同名の街(ドイツ名: ベーテル)があり、第二次世界大戦中、ナチスが「優れた人間のみが生きる権利がある」との思想から、障害者を抹殺しようとした時、住民が「彼ら・彼女らを連れて行くのならば、私たちも連れて行け」と、命懸けで抵抗した。1984年、浦河教会の牧師だった宮島利光がこのドイツのエピソードをもとに、「べてるの家」と命名。


 つまり、「べてるの家」はキリスト教を根っことしている場所なのだ。

 話を冒頭に戻す。前半はなかなかに過激な人生を展開した山本賀代さんが、ラスト近く、ごく地味にひっそりと書かれた個所に、ふと心を掴まれた↓

 わが家のトイレにはたくさんの祈りが張ってあります。そして朝一番に365日の日めくりカレンダーをめくり、聖書の勉強をします。トイレに行ったついでにこっそりと神様と対話し考えるという行為は祈りそのものです。(中略)嫌な自分や苛立ちは、トイレで水に流してしまえば良いのです。

 うーん、トイレにはやはり神様がいるのだ。しかしそれは掃除するというギブ&テイクな取引?ではなく、神様と対話し、祈るための場所なのかも。
0

2010/12/3

クリスマス句会  読書

 突如、季語がクリスマスの俳句を読みたくなり、検索してみました。ネット上にあったクリスマスの俳句です。気に入ったものを引用します。

罪はみなイエスにお預けクリスマス 藏本博美

初デート遅刻しましたクリスマス 田中時子

擦り切れしオールドジャズとクリスマス 山元志津香

励ましの裏目に出たるクリスマス 出口誠

天国を行つたり来たりクリスマス 山田六甲

クリスマス特別なこと何もなく 玉川梨恵

グロリアインエクシェルシスデオクリスマス 稲畑廣太郎

小道具の電球切れしクリスマス 辻恵美子

クリスマス佛は薄目し給へり   相生垣瓜人

プルタブの音も銀色クリスマス 掛井広通

街に出るただそれだけのクリスマス 千田百里

グレンミラーシンコペーションクリスマス 塩見恵介

クリスマスケーキ傍へに賀状書く 鎌倉喜久恵

女の子ふはふはふはとクリスマス 小林朱夏

神佛は良きにはからへとクリスマス 木村茂登子
1

2010/11/25

恋する春画  読書

 今月号の『芸術新潮』のご案内(メルマガ)が届いた。

 今回は、いろんな意味でやけに期待させる内容である。その特集名とは、『恋する春画』。これって、かつての(いまでも刊行はされているけれど90年代の)雑誌『クレア』が好んでつけたような特集名だ。いや「春画」でなく「恋する〜」の方なのだが。

 実はこれ、女子目線での特集なので、ベクトルはポルノ方向だけではない。というか、春画に眉をひそめるようなバイアスがかかったのは明治期から。江戸時代には「老若男女に親しまれていた」ようなのだ。加えて、笑いあり、涙あり、BLも「セックス・アンド・ザ・シティ」も「セックスできれいになる」だってあり!な懐のひろい世界だったのだ。

 編集長からの広報もあるので、ぜひとも目を通していただきたい。これが抜群に面白いのです↓

芸術新潮 2010年12月号(2010/11/25発売)

女子だって楽しめる
「恋する春画」
 今回の春画特集は女性にも楽しんでもらおうと、担当編集者の女子二人が知恵を絞りました。掲載作を選ぶ時など、放送禁止用語連発のガールズトークで、まずは自分たちが大盛り上がり。男のためのポルノグラフィと誤解されがちな春画ですが、そもそも江戸時代には「笑絵(わらいえ)」とも呼ばれたように、老いも若きも男も女も、おおらかに笑いつつ楽しむものでした。たとえば幕末にさるお屋敷を訪ねた外国人は、その家の奥方から「お疲れでしょう。一息おつき下さい」と春画を見せられ、驚いたと記しています。日本人には、それが普通だったのです。春画に描かれたのも、普通の庶民の様々なるいとなみ。純愛に不倫、個人教授や老年カップル、ボーイズラブも当たり前、そんな江戸っ子たちのくったくのない性のありようについては、「夢見る大江戸セックス・ライフ」と題し、橋本治さんが見てきたように教えてくれます。平成の女子も男子も、合言葉は「春画を我らに!」


 というように、「春画のキホン」はもちろんのこと「いともラブリーな傑作選」、「春画が教える江戸歌舞伎のホント」「夢見る大江戸セックス・ライフ」まで読みどころ満載。しかも案内人はこの人しかいないでしょ、という橋本治先生だ!

 これはとくに女子のみなさん、ぜひご購入を。女子目線でこんな特集を組んでくれた『芸術新潮』編集部に拍手喝采だ!
1



teacup.ブログ “AutoPage”
AutoPage最新お知らせ