DX7はおとなしい兄、こいつは元気な弟。
【概要】
1987年発表 FM音源(4オペレータ・8アルゴリズム)
同時発音数:8、鍵盤:61
プログラム数:インターナル32。プリセットバンクA-D各32。
イニシャルタッチ・アフタータッチあり。
MIDI端子(IN/OUT/THRU)あり。定価118000円
【当時の事】
DX7ユーザーとしては、4オペレーターのFM音源は、ノーチェックでした。もっと言ってしまえば、あんなもんで音なんか作ってられるか、DX21だぁ?DX100だぁ?んなもんオモチャじゃ〜!というノリでいました。しかし、この手の4オペモデルには、DX7では絶対にまねできない高速LFOが装備されており、波形をサンプルアンドホールドにしてピッチにかけると、ノイズでモジュレーションをかけたような、不思議な倍音が得られることができます(確か、プリセットDバンクの20番)。これは6オペモデルではぜったい出ません。また、後のTX-81Zでは、サイン波以外の波形を装備していたこともあり、4オペも捨てたものではないなという認識は持っていました。
80年代末から90年代初頭にかけて、SY77、99というFM音源の集大成のような機種が出ていたものの、Korg M1やRoland D-50に代表されるPCMシンセが急速に普及しはじめたため、一部のコアなファンを除き、FM音源はかつての栄華が嘘であったかのように衰退していきます。そのころ私もEnsoniqのSQ'R(PCMシンセ)での音作りに燃えていました。中古市場においてもDX7UやTX-802等は常に人気が高かったわけですが、これがTX-81Zとかになると1万円を切るか切らないかのたたき売り。かつて知人のTX-81Zを操作したことはあったのですが、ボタンの少ない1Uラックであるためエディットの困難さはただもので無く、がんばった割りには、あまりプリセットとの出音と変わらない、という経験をしていたので、いくら安くても、購入する気にはなれませんでした。
【さしずめ元気な弟分】
それから10年近く経ち、会社の後輩から『実は、古いシンセが実家に転がってて、じゃまで捨てられそうなんですけど、要ります?』ということで、タダでもらったのがV2。よく調べたらV2というのは、TX-81Zの鍵盤つきバージョンなのですねー。それがわかった瞬間、当時のエディットしにくさが頭をふっとよぎったわけですが、いざ触ってみると、これが予想を裏切る面白さ!DX7ほどパラメーターも多くなく、細かい設定はできないのですが、その分、思い切ったエディットにトライできる利点があります。
これはオペレーターの問題なのか、D/A変換の問題なのかどうかわかりませんが、DX7と同じような音色、たとえばFMエレピやFMブラスを作ってみても---DX7のような深みに欠けるのですが---明るく、ソロを取るのに向いている音色が多いように思います。DX7がおとなしいお兄ちゃんだとすると、V2は元気のよい弟といった感じでしょう。単なるFM入門機にしておくにはもったいないですね。
また、そして、DX7にない特徴の一つとしてクイックエディットというのがあります。FM音源の場合、音色の明るさ一つ、リリースタイム一つとっても、それを瞬時にエディットするのは手間がかかります。しかし、クイックエディットのモードに入ると、アタック、リリース、ブリリアンス、ボリュームといった聞きなれたパラメーターがあり、これを変化させると、それに対応する各オペレータのパラメーターがマクロ的に変化するというものです。特にブリリアンスを変化させるときに、重宝します。新しい音に表情をバサッと変えてみたい時、バンド練習などで音の明るさを微調整したい時などに、とても役立つ機能です。
【その他】
これを譲り受けたとき、一番下のC鍵盤が折れていましたが、筐体をあけて残りの破片をかき集め、足りない部分をプラパテで造形して固めたら元通りになりました。この壊れやすさは、筐体のシルエットから鍵盤が飛び出していることに起因していると思います。そういえばARPのオデッセイも出っ歯鍵盤なので折れやすいということをよく聞きます。
このモデルは、海外ではDX11という名前で販売されていました(写真参照)。といのも、V2とは、かつてナチスドイツが開発していたミサイルと同じ名前で、欧米では敬遠される可能性があるからなのだそうです、と、どこかで読んだ(笑)。


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