Moogのメタルステッカーが、かえって哀れ。
【概要】
1981年発表。アナログ音源(1VCO+サブ/1VCF/1VCA/1EG/1LFO)
同時発音数:6、鍵盤:61、プログラム数:32
タッチセンスなし。定価:248000円。
ちなみに私の所有しているPolysixには、Korg USAのMIDI拡張キットを増設してます(8万円)。MIDI化に伴い、サスティンペダルが使えるようになったり、インターナルのプログラム数が320まで拡張.....しているのですが、かえってバンクセレクトが使いにくくなってます。また、ユニゾンモードのときに、アタックにクリック音が付随してくるかのような遅れ?というか違和感があります。Polysixをお持ちの方で、MIDI改造をお考えの方は、止めはしませんが、よーく考えてからの方がよいと思います。
写真は、電源部分付近に設けられたMIDI端子群。その上に私の名前を書いたシールが貼られていますが(実名なのでボカしています)、このフォントはまさにSEQUENCIAL CIRCUITを模したもの。Moogのメタルステッカーといい、このラベルといい、私が、いかに当時の高級機にあこがれていたのかというのがよくわかります。
【発売当時の事】
(1)ポリフォニックシンセにあこがれる
シンセサイザーをいじり始めて3年、いつまでも、プリョリョリョリョ〜とか、ミギャーとかいう音ばっかり作ってるのも、どうなんだかなと思っていた頃です。YMOにはまって、モノフォニックシンセとダブルラジカセで『ライディーン』を多重録音したりしていましたが、和音を一つ一つをきれいに重ねるのには無理があるので、ゆくゆくは和音がでるシンセがほしいと思っていました。
よし、高校に入ったら、和音がでるシンセ買ってもらってバンドやるぞと思っていましたが、和音が出る(ポリフォニック)シンセは高かった。割と安い部類のRoland Jupiter-4でも40万近くしていました。ストリングスやオルガンにちょこっとシンセサイザー機能がついて20万円そこそこという機種も出回っていましたが、モノフォニックシンセをこねくりまわして耳が肥えていた私が、そんなもので満足できるはずがありません。といってもYAMAHAのCSシリーズのポリフォニック機でも50〜100万以上でしたし、坂本龍一がよく使っていたPROPHET-5というのも120万ぐらいしていましたから、所詮、入学祝いなんかで手が届くわけ無いのですけれどもね。
かといってストリングスマシンそのものが楽器としてシンセサイザーに劣るというつもりはありません。ソリーナと呼ばれる有名なストリングスマシンがあります、これが本物のストリングスかと思うほどの出音で、3相コーラスエフェクト独特のゴワゴワした粒アンのような荒っぽさが無く、まさに濾しアン。しかも哀愁漂うイイ音色だったのです。ところが、当時の現行商品のYamaha SK20 なんかは、大雑把で果てしなく能天気というか、ソリーナのような哀愁、儚さなは無かったんですね。よっぽどRolandのRS-09の方がきめ細かい音がしていました。
(2)貧乏人のプロフェット現る。
やがてRolandから、Jupiter-4の上位機種として、Jupiter-8が約100万円でリリースされ、いよいよポリフォニックシンセは庶民のものでなくなっていくのだろうなと思っていた頃に登場したのがKorg Polysixでした。248000円で、同時発音数がPROPHET-5よりも一音多い、6音ポリフォニック!音色が32個もプログラムできるという画期的なものでした。
しかし、ローコスト化の為、VCOは一つ、EGも一つでVCFとVCAで共用、ノイズジェネレーターも、リングモジュレーターも、ポルタメント無い、というシンプルなパラメーター構成。今となってはこのパラメーターの少なさに、潔さ、男気といったものを感じるのですが、当時は、『えー?たったこれだけ?』というのが正直なところでした。ちなみに私は電子部品のことはなにも知らないのですが、Polysixには先述のPROPHET-5と同じICチップが採用されていたので、貧乏人向けのプロフェットと呼ばれてもいたそうです。まったく大きなお世話です。
しかし、店頭で試奏してみるや、『こ、この音は、こ、コ!!!』。まさに、コシアンだったのです。これはひとえに、アンサンブルエフェクトの効果によるものなのですが、このシンセは、もうそのエフェクトだけで、パラメーターの少なさなどどうでも良くなってしまい、当時、私にピンクフロイドの魅力を教えてくれたN君といっしょに、楽器店の店頭で、夢中になってピンクフロイドの名曲『狂ったダイヤモンド』のイントロとかを弾き狂っていました(詰襟の中学生が)。この音が出せるのは今でもソリーナとPolysixだけだと確信しています。
たしかにPolysixは、効果音とか派手なシンセブラスは苦手で、地味とよく言われるのですが、それを補うに余りある機能があります。6つのオシレーターをいっせいに鳴らすユニゾンモード、任意に押さえた和音構成を記憶し、指一本でコードが弾けるコードメモリー、アルペジオ機能等などです。特に、ユニゾンモードでソロをとったときの存在感は、決してギターにひけをとりません。さすが、ヤンス・ヨハンソンに愛用されているだけのことはあります。
とはいえ、ユニゾンモードにしたときの音に厚みを出すために、6つのオシレーター間のチューニングが微妙にずれているので、ポリフォニックモードで同音連打をすると、それがバレます。そういった意味では、できの悪いシンセなんですが、『こちとらナンデモ屋じゃねえんだ。嫌なら、ほかを当たってくんな』といわんばかりの職人気質をこのシンセに見出すことができます。いわば、このシンセほど、『ナンバーワンにならなくてもいい』というのを地で行っている機種は無いのです。『ナンバーワンになれない』のではなく、『ナンバーワンにならない』のです。。。。。無理矢理か。
(3)その他
で、よく考えると、LFO(というのか?)が4つあるんですね。アルペジオのスピード、ビブラートのスピード、PWMのスピード、コーラス/フェイザーエフェクトのスピード。この程度のローコスト機だったら、普通はPWMとビブラートをLFO共用にしていたりするものです。こういうイイ意味で無駄が多いのもKorgのシンセサイザーの良さでしょう。べつにKorgの入社試験に落ちた(実話)からあてつけているのではありません。
これは単なる想像ですが、Polysixにコードメモリー機能をつけるということになったとき、おそらく開発の現場では、エマーソン・レイク&パーマーの『アクアタルカス』のフレーズが鳴り響いていたことでしょう。というか、『それやりたかったんちゃうん?(笑)』と。
今でこそ、polysixの音色に誇りを持てるほど、大人になった私ですが、購入当時、音色以外で、どうしても気に入らなかったのが白ベタのデカいロゴと、電源コードの引っ掛け部。これがいやで、引っ掛けは取り去り、ロゴの上にもギターの指板用のキラキラシールを切り抜いて貼っています。高校生時分に貼ったままです。

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