2014/5/25

秀歌(31)『一葉日記』高木絢子  秀歌読みましょう

去年頂いた歌集を、今頃になってご紹介するのは作者に失礼かもしれないが、そんな歌集が何冊かあって、知られているものもあまり知られていないものも、歌集に編まれているとそれぞれに味わいのあるものである。
この『一葉日記』(不識書院刊)の作者高木絢子さんは高名な歌人ではないけれど「翔ける」と言う結社に入って16年、それ以前の歌歴は分からないが第一歌集はその前に出されたのか、これが16年目の第二歌集とある。はっきりとわからないがそれなりのお年の方ではないかと思われる。文京区小石川の生まれで古典文学にも明るく文学少女であったのだろうと言う感じが歌のなかにたちのぼっている。現在は静岡県にお住まいで、わが家には静岡の血が流れているので奇遇な気がする。
出版される歌集のすべてが素晴らしいわけでもなく、すごく上手でも自分の感性に働きかけてこない歌集もあるけれど、それは読者の好みで私が好きな物だけ取り上げることにしているので、カラスの勝手でしょ的なところはあるだろう。この歌集に魅かれたのは小石川の生まれ育ちで環境に似通ったところがあるからだろうと思う。400首の中から十首を上げる。

風若葉「庭に一本棗の木」すらすらうたふ夫の唱歌

白鼻心隣家に続くほそみちを物知り顔に通り抜けたり

首都高速道そらを蔽ひて神田川掘割ふかく鯉魚を養ふ

夏の夜はまだ宵ながら名古屋城ひかりを放つビルのあはひに

どつかりとシルバーシートに腰おろしやをら舟こぐわれかおそろし

雪の日の九段坂駈ける樋口奈津 東京メトロの迷路をいそぐ

「藤むら」の桜もち買ふ一葉の心ときめき弥生のそらは

多摩川を二つに分けてゆく水のかの子の絶唱『老妓抄』よむ

しんしんとシリウスは吼ゆ読み返す病床日記訣れのうたを

ジェラシーを捨ててしまへば軽からう何処へ向ふもおもたきかばん

なんといっても品の良さ、しかし古くもなくちぢこまってもいない、歌のセンスの良さを持っている方なのだろう。集題の『一葉日記』は、高木さんが『一葉全集』昭和16年刊新世社版全五冊のうち四冊を手に入れられ、それを読みつつ一葉への思慕また時に一体感から歌を紡いだ心を歌日記として題したものと言う。
この歌集を読んで、遠い昔の一葉の恋にわが身をなぞらえたころのことは浮かばないが、現在の自分が作者高木さんに親しい気持ちを抱いたことを(密かに)書いておく。
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